AppleがCiscoと提携し、企業ネットワークでの「iOS」アプリのパフォーマンスを向上しようとする動きは、Appleがいかに法人顧客を同社のキャッシュフローと製品サイクルを円滑にするための好材料と見なしているのかを浮き彫りにしている。
Appleは米国時間8月31日、Ciscoとの提携について概要を示し、Ciscoの機器やソフトウェアがiOSアプリとiOS搭載デバイス向けに最適化されるとした。「iPhone」と「iPad」にも、デスクとスマートフォンをつなぐコラボレーションソフトウェアが用意される。
AppleとCiscoの提携の要点はこうだ。今回の提携で、AppleはモバイルOS分野に関与していないエンタープライズ市場の大手企業と新たに手を結び、販売網と高度な協業体制を手に入れる。Ciscoは、iOSと「Android」のどちらがエンタープライズ市場で勝利を収めるかといったことや端末装置には関心がない。Ciscoが重視しているのは、企業ネットワークを流れるデータだ。
AppleとCiscoの提携は、1年ほど前のIBMとの提携に似ている。IBMもモバイルOSやモバイルデバイスの分野には関与していない。IBMはAppleと連携し、モバイルデバイス管理とアナリティクスソフトウェアおよびサービスを売り込もうとしている。Appleは企業への販売網を得ることができる。AppleとIBMは独自の企業向けアプリの開発に取り組んでいる。
スモールビジネスとプロシューマーの分野に関しては、AppleはBest Buyと提携し、サービスとサポートの効率化を実現している。Best Buyは「Apple Care」の認定パートナーになる予定だ。
少なくともエンタープライズ市場に関するAppleのアプローチは、モバイルアプリが企業を囲い込むものとなるようにすることである。エンタープライズ分野に参入する手段として「BYOD」に依存することではもはや満足できなくなったAppleは、販売網を獲得しようとしている。同社はiOSにユニークな利点をもたらすことを目指している。具体的には、いわゆる高速レーンを利用できる使いやすい企業向けアプリを開発するということだ。
Ciscoとの提携がAppleにとって有益である理由
短期的には、Appleにとって最大のメリットとなるのは、Go-To-Market計画に関してCiscoと協業できることだ。この動きだけでも、Appleは以前より大きな販売網を得ることができる。Appleが大規模な企業向け販売チームを独自に作りたいと考えていないことは明らかである。
興味深いのは、AppleとCiscoのエンジニアリング面での提携だ。アプリのパフォーマンスを高速化するために、AppleとCiscoに何ができるのだろうか。Ciscoは従業員や経営幹部らが気づくようなアドバンテージをもたらす形でiOS向けに最適化できるだろうか。
さらに、Ciscoは自社のコラボレーションソフトウェアとクラウドを統合して、デスクからiPhoneにシームレスに移行できるようにする。Ciscoはここ数カ月、コラボレーションへの取り組みを強化している。
CiscoとAppleがどのように連携するのかは現時点では不明だが、販売網だけを見ても、この提携は両社に利益をもたらすように思える。CiscoとAppleの提携が上手くいけば、IBMとの協業と同じような流れが生まれるだろう。IBMとAppleはiOSとそれを搭載するデバイス、さらにIBMのアナリティクス機能を生かすエンタープライズバンドルやアプリを次々とリリースしている。