オプティム 代表取締役社長 菅谷俊二氏
PCやスマートデバイス、IoT機器、ウェアラブル端末を遠隔から統合管理するクラウドサービス「Optimal Biz」を提供するオプティム。独自のデバイスリモート制御技術や画面共有技術で多数の特許を有し、知的財産戦略に長けた企業としても知られる。新興市場に上場する情報通信企業の中で同社は特許資産規模ランキング第1位、同社創業者で代表取締役社長の菅谷俊二氏個人の特許資産規模も情報通信分野で日本人第1位だ(パテント・リザルト調べ)。
2014年10月に東証マザーズに上場し、初本決算となる2015年3月期業績では前年度比3.6倍の営業増益を記録した。9月に上場市場変更を申請し、10月には市場変更の規定上最短の1年で東証一部に上場する見通しだ。
農業ITは採算が取れる
同社は今夏、佐賀県、佐賀大学農学部と連携して“農業ビッグデータ”のビジネスに参入した。
佐賀県の全農業試験場において、ドローンで農場を空撮した動画データや、カメラを搭載するアイウェア型デバイス(スマートグラス)で撮影した農作業者の視覚情報、各種センサで測定した農場の温湿度など、農業に関する多様なデータをクラウド上に吸い上げて蓄積。同時に、農業関連データの解析手法、実際の農業でのデータ活用についての研究を進める。
佐賀大学農学部の農業試験場を飛ぶドローン
データ解析基盤として、ドローンやウェアラブル端末を含むデバイスを統合遠隔管理する機能とデータ解析機能を併せ持ったクラウドサービス「SkySight」を開発し、農業事業の開始に合わせてリリースした。ドローンで撮影した作物の“色の配合”を分析するRGB解析技術、ドローンの飛行ルートを地図情報上にマッピングする機能などを実装する。
「SkySight」でドローンが空撮した映像を画像解析
ドローンの映像をRGB解析することで、例えば、畑の中から枯れ葉や害虫のいる葉の自動検出が可能になるという。このように、データの蓄積と解析を通じて農業を省力化し、生産者1人あたりで管理できる農地面積を増やすことで農業人口減少という社会問題を解決しようというのが、農業ビッグデータビジネスの目指すところだ。
農業ITもビッグデータビジネスも採算化が難しいとされる事業分野ではあるが、菅谷氏は「国の方針で今後日本の農業全体が企業化、大規模化に向かう。農業ビッグデータビジネスは遠くない将来に採算ベースに乗る」と事業成功に自信を見せる。
農業ビッグデータの取り組みと平行して、同社の事業成長の源泉である知財戦略のノウハウを佐賀県、佐賀大学に提供し、農業技術の知財化を推進していくことを表明している。
農学部出身のIT経営者が農業へ
「佐賀を世界一の農業ビックデータ地域にする」――。大望を語る若き経営者は、実は佐賀大学農学部の出身だ。とりわけ“佐賀の農業”に思い入れが強いのもうなずける。
これまで、農業分野でのビジネス経験はない。学部3年生だった2000年にオプティムを起業。動画ダウンロード中に企業広告を流す仕組みなどインターネット広告サービスの開発からスタートした。その後、NTTグループと業務資本提携し、パソコンやインターネットのリモートサポートサービス、パソコンやモバイル端末のリモート管理サービスの開発、提供へと事業を展開してきた。
現在のビジネスの主軸はOptimal Bizだが、従来モバイルデバイス管理(MDM)サービスと称していた同サービスの位置付けを、ここにきて「IoTプラットフォームサービス」に変更した。「PCやスマートデバイスだけでなく、IoT機器、ウェアラブル端末を含むあらゆるデバイスを統合管理するインフラ」(菅谷氏)であることを強調している。
今年8月、スマートグラスを活用する遠隔作業支援サービスを発表。「建築や医療、教育などあらゆる産業でウェアラブルデバイスを使う新しい働き方を提案していく」(菅谷氏)としていた。今回の農業ビジネスへの参入はその一環だ。
次は遠隔医療事業
オプティムが次に狙うビジネスフィールドは「医療」だ。9月2日に、医療情報のプラットフォームを提供するMRTと、医療IT分野での業務提携を発表した。オプティムの遠隔支援技術と、MRTが持つ医療機関ネットワークを組み合わせて、遠隔地にいる医師に簡単に健康相談ができるサービスを共同開発するとしている。
MDMからウェアラブル、農業、医療へと矢継ぎ早にビジネス展開するオプティムに今後も注目したい。