適切に誘導する
OK/キャンセルに限らず、押した結果なんらかの操作が行われ、状態が変わる場合、ラベルに書かれる言葉(あるいはアイコンや記号)はユーザーの操作を適切に誘導するための重要なポイントであり、簡潔かつ適切である必要がある。適切であるとは「押すと何が起こるかがはっきりわかる」のに加えて「どれを押すべきかがはっきりわかる」という条件を満たすことである。
ウェブ上のフォームで一連のデータを入力して何かを登録するような場合、「登録」を押すと確認画面を経て登録が完了する場合もあれば、特にデータが多い場合など、データの「(一時)保存」と「登録」が別になっており、一旦保存しないと登録ができない場合などもある。後者の場合、まず「保存」が必要なことなど、両者の関連がユーザーにわかりやすく伝わらねばならない。
「登録」がデータの保存を意味し、前述の登録に当たるのが「申請」と書かれているシステムもあるかもしれない。組織や会社、国や文化をまたがって用語が統一されていればよいが、なかなかそうもいかないので「意図しているもの・設計者が慣れているものと違う意味に取られうる」ことを認識し、また関連性をわかりやすく示し、適切に誘導するよう注意したい。
「マニュアルをちゃんと見れば判るはずだ」「業務の流れを把握していれば明らか」などの意見が出るかもしれないが、使いやすいUI、より好ましいUXのためには、必要な前提知識は少なくてすむほうがよい。あるいは少なくとも、できるだけその場で簡単に確認できるほうがよい。
これは、さまざまなミスを防ぐためにも心掛けるべきことである。「防げるミスは防ぐ」のもUIの重要な役目であり、「ミスをしにくい安心感」は、よいUXの1つである。
まとめ
これまでの連載を振り返りつつ、あらためて UI/UXとは何かということを述べ、また、ボタンやラベルなどに書かれる言葉や名称などもUIの一部であり、重要な設計要素であることを論じた。今回は触れなかったが、UIやUXのデザインのためにはさまざまな「観察」が重要であることは、連載中で繰り返し強調してきたとおりである。
いくばくかの文章を読むだけでデザインに必要な能力が全て身につくことはないが、この連載が、よいデザインのための土台の、しかも比較的忘れられがちな部分を身に付ける手助けになればと思う。
地味ではない、より華やかな「UX」にも、基盤としてそうした要素が必要である。UI/UXデザインの道は地味で地道であることを忘れずに、より広い知見を身につけていっていただきたい。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。 ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。 HCI が専門で、GUI、実世界指向インタフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。