認知症の治療法は見つかっていないものの、早期発見や早期治療により進行を遅らせることで、患者の生活の質を大きく向上させるとともに、介護者の負担を減らせるようになるはずだ。
IBM研究所は2012年以来、教育分野や業界の10機関におよぶパートナーと提携し、認知症のリスクが高い人を容易かつ迅速に識別する方法を生み出そうと取り組んできている。

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そして今日における取り組みでは、スマートフォンやタブレットが当たり前のように活用されている。
IBMの科学者でありこのプロジェクトの責任者を務めるAharon Satt氏によると、同プロジェクトは、認知症の早期診断などに取り組む「Dem@Care」プロジェクトから始まったという。
年を取っていくと、誰しも認知能力がある程度衰えていく。しかし、認知症では通常よりもずっと速く衰えていき、最終的には認知能力の一部を失うため、早期発見に対する強い関心が寄せられている。
認知症は極めて一般的な問題となっており、2050年にはその症例が3倍になると予想されている。このため、その見極めが「早期発見と早期対処」につながるというわけだ。しかし、60歳を過ぎた人全員にMRI検査を受けさせるというのも非現実的な話だ。
同氏は「問題はその方法だ。認知症専門医の元に連れて行く必要があると家族が判断できる頃には認知症の第1段階に達している可能性がある。それでは遅すぎるのだ」と述べている。
研究チームが考え出したのは、ユーザーに質問し、画像を見せるとともに、ユーザーの声を録音するアプリだ。質問には、ユーザーに文章を聞かせてその内容を繰り返させる、数を逆から数えさせる、絵の説明をさせる、30秒以内に思いつく動物の名前をすべて挙げさせる、悲しかったことや今朝の出来事を描写させるといったものがある。
これらの質問はランダムに見えるが、神経心理学で実績のある数々の検査に基づいている。そして、これらの検査はたいていの場合、訓練を受けた臨床医の監督のもとであれば30分程度で実施されるものだ。各質問は、脳のさまざまな機能の評価が目的となっている。同プロジェクトは質問のプロセスを5分程度に短縮したうえで自動化している。
記録はIBMのWatsonにアップロードされる。Watsonではそういった記録を分析するアルゴリズムが実行される。研究チームは何年にもわたり、数多くの患者の記録を蓄積し、その結果を3つのグループに類型化している。それらは、統制群と呼ばれるグループ(記憶力が弱くなったと自覚しているが、実際のところ何ら異常の認められない高齢者)と、認知症発症前(軽い認知障害のある人)のグループ、初期のアルツハイマー病を含む軽度の認知症を発症しているグループだ。このような研究には自らの健康管理に積極的な患者の協力が必要不可欠だ。