先日、本田技研工業や日産に対して、ロボットカーの実験を公道で行う許可がカリフォルニア州で下りたというニュースがReutersなどで報じられていた(*1)。また「Industry 4.0」関連で「『アップルが未来の自動車を開発することになるのか?』というのは決して些末な問いかけではない」とするAngela Merkel独首相の発言が引用されているBloombergの記事も出ていた(*2)。
世界各地でロボットカーの実現に向けた動きが少しずつ進んでいることが伝わってくるが、まずは前回の後半で触れたBenedict Evansのコラムについて話を続ける。
なお、Evansのコラムの内容は「自動車業界の将来がこうなる」といった予言でもなければ、特定の技術の実現性に関する具体的な議論でもない。そうしたものを期待して読まれる方はきっと肩透かしを食らわされたと感じるかと思う。その点をあらかじめご理解いただければと思う。
さて。Evans(大手ベンチャーキャピタルのAndreessen Horowitz=a16zに所属するアナリスト)は「Ways to think about cars」というこのコラムのなかで、自動車分野に大きな変化をもたらしそうな要因として次の3つを挙げている。
- EV(電気自動車)の普及による車輌開発・製造工程の簡素化
- オンディマンド・サービスの普及を受けた自動車の所有と利用に関する変化
- 自動運転車(ロボットカー)の実現が社会に及ぼす波及効果
(1)の点についてEvansは、PCやスマートフォン、あるいは家電分野で生じたような変化を喩えに使っている。内燃機関も機械式の変速機(トランスミッション)も不要になって、自動車のつくりがこれまでのものよりシンプルになる。
それにともない、自動車開発に必要とされる資本力や技術的ノウハウなども変わり、結果として自動車の製造主体や製造方法が変わる可能性がある。Evansはそんなふうに記し、そして「電子計算機もカメラも中核部分はソフトウェア(の代替物)に変わってしまった。それと同じことが自動車のギヤボックスやトランスミッションにも起こる」と付け加えている。
また、こうした変化に伴い、特に高度な専門知識がない者(事業者)でも、自動車を開発できるようになるかもしれないと、Evansは記す。15年前に携帯電話機を開発しようと思えば、携帯通信の仕組みについてそれ相当の技術的な理解が必要とされた。だが、いまでは有りものの部品を買い集めて、外部の組み立て業者に委託するだけでいい。
また、研究開発=IP(知的財産)確保にかかるコストも少なくなっているので、市場参入への障壁がそれだけ低くなっている。PCだけでなく、スマートフォンでもそういう変化が生じている。スマートフォンやその他の家電製品に比べたら自動車は物理的に大きなものなので、こうした変化の図式がそのまま当てはまるかには疑問の余地もあるけれど、それでも同様の変化が起こらないとは言い切れない……。そう記すEvansの目に映っているのは、自動車分野の水平分業化ということだろうか。
なお、スマートフォンビジネスの重点がマーケティングや流通、カスタマイズしたOS内でのサービスの拡充などにシフトしてきているという話を、今年春先あたりからよく目にするようにもなってきている。「高機能製品の低価格販売」「ネット直販」で成功した「Xiaomiに倣え」という動きが、中国のスマホメーカー各社の間で活発化している――Lenovo、Huawei、ZTEといった既存の大手メーカーに加えて、Qihoo 360(アンチウィルスソフトメーカー)やLeTV(動画ストリーミングサービス)といったあたりでも、そうした動きが見られるという話が、先週もThe Wall Street Journalで記事になっていた(*3)。
また、「初期費用が1000ドルもあればスマートフォンを開発できてしまう」「深圳あたりにはそうした需要(=新規参入組による製品の企画・開発)に応える会社がいくつかあって、Qualcomm製よりも安いMediaTekのSoC(と同社のリファレンス設計」)を使ったスマホの生産を、1台20ドル、ミニマムロット50台から引き受けてくれる」といった現状をまとめた話が7月中旬にBloombergにでていた(*4)。現在の形のスマートフォン――センサ付きの液晶画面を直接指で触って操作する方式のもの――が登場してからたかだか8年あまりである点を考えるとそれはそれでちょっとした驚きだが。