社内で運用する「プライベートクラウド」と、社外のクラウドである「パブリッククラウド」を必要に応じて組み合わせて構築するシステム環境「ハイブリッドクラウド」が、エンタープライズシステムの現実解ではないかと言われている。
実際のところ、ハイブリッドクラウドをユーザーはどう解釈し、システムをつくるべきなのか――。TechRepublic JapanとZDNet Japanの呼び掛けに、ハイブリッドクラウドへの取り組みで市場をリードする5社が集まり、座談会を開催した。本稿を皮切りに、計5回にわたり会の様子を紹介していく。
メンバーは日本IBMクラウドマイスターの紫関昭光氏、ヴイエムウェアでハイブリッドクラウドの指揮を執る巨勢泰宏氏、NTTコミュニケーションズのクラウドエバンジェリスト 林雅之氏、日本オラクルでクラウド技術に関する製品戦略を統括する佐藤裕之氏、日本マイクロソフトでモビリティとクラウド技術部の部長を務める各務茂雄氏(当時)の5人。モデレーターはTechRepublic JapanおよびZDNet Japan編集長の怒賀新也が担当した。
IBM「ハイブリッドクラウドはオン/オフプレミスとSoE/SoRの二軸」
ZDNet Japan それぞれの立ち位置を確認するため、顧客からクラウドの必要性やハイブリッドクラウドの特性について聞かれたとき、どのように回答しているのか教えてください。
IBM クラウド事業統括 理事 IBMクラウドマイスター 紫関昭光氏 クラウドコンピューティング全般、特にオープンクラウドテクノロジが得意分野
IBM 紫関氏 まず「ハイブリッド」の意味についてですが、これまでは「プライベートクラウド」と「パブリッククラウド」を併用することをハイブリッドクラウドと呼んでいました。しかし今は、「オンプレミス」と「オフプレミス」と呼んだ方がいいと思います。というのも、今はマルチテナントを特徴としていた旧来型のパブリッククラウドと、オフプレミスという言葉が指すものが同じではなくなってきているからです。
IBMは、2つの切り口でクラウドを説明しています。1つはオンプレミスとオフプレミスのハイブリッド。もう1つは、アプリケーションには(タブレット端末を用いてビジュアルで顧客に訴求するような)サービスのライフサイクルが速い“System of Engagement(SoE)”と、緩やかに進んでいく(ERPなどの)旧来型システムである“System of Record(SoR)”とがあり、このハイブリッドへの要請があることにかかわってきます。われわれはこれを「二軸のハイブリッドクラウド」と呼んでいます。
2つの軸で分類することで4つの象限が出てきます。その4象限をインターオペーラビリティ(相互接続性)を保ちながらつなげることが、現在のハイブリッドクラウドだと考えています。当然、エンタープライズ企業の場合は1つの象限だけがIT戦略ということはあり得ません。4つの象限すべてを組み合わせていく戦略を強く勧めています。
スケーラビリティが鍵
またクラウドの必要性については、やはりスケーラビリティが鍵になります。特に、オフプレミスを含めたハイブリッドクラウドを考えたときに、オフプレミスはユーザーからみると、(パブリッククラウドベンダーが提供するような)いつでも使える無限のリソースがあります。(突発的なトラフィックなどにも柔軟に対応できるため)これは大きな魅力です。
もう1つの軸、SoEとSoRで見た場合は、新しいアプリケーションニーズに対するスケーラビリティです。企業の価値の出口戦略はアプリにあります。何かがうまくいったときはアプリのニーズが高まりますし、うまくいかなかったときも、やはりアプリを修正するというニーズが高まるのです。そういったニーズに応えられるのが、SoE側のPaaSを代表とするクラウドだと思います。
つまり、リソースのスケーラビリティと、アプリ開発ニーズのスケーラビリティの両方に応えられるのがクラウドです。