シルバーウイーク明けの日経平均は、大幅続落が見込まれる。23日のCME日経平均先物は1万7575円まで下がっている。中国景気、世界景気への不安に加え、Volkswagenショックで欧米株式が下落したことも影響し、日本株にも、外国人投資家の売りが続きそうだ。楽天証券経済研究所のチーフ・ストラテジスト、窪田真之氏の分析を紹介する。
とんでもない不祥事
米国環境保護局(EPA)は9月18日、VWのディーゼルエンジン「EA189」を搭載した車が、米国で行われる廃ガス規制に関する試験を、違法ソフトウエアを用いて不正にクリアしていたと発表しました。「EA189」搭載車が、実際の走行時に排出するNOX(窒素酸化物)は最大、基準値の40倍になることが分かった。
米国で販売された対象車は合計約48万台に上り、米当局がVWに科す制裁金は1~2兆円に達する可能性もある。
VWは不正の事実を認め、9月22日、「EA189」を搭載する対象車が世界各国で1100万台に及ぶ可能性があるとし、この問題に対処するための費用65億ユーロ(約8670億円)を引き当てると発表した。イタリア、韓国は、この問題を受けて、自国内で販売されたVW車の調査を始める。
今後、VWに制裁金を科す国が増えてくることが予想される。これを受けて、VW株は、9月21、22日に合計35%も値下がりした。
VWは、ドイツを代表する製造業で、この問題の影響は自動車部品・素材・機械などドイツの製造業全般に及ぶ可能性がある。もし欧州が力を入れてきたクリーン・ディーゼル車全般への不信につながれば、欧州の製造業全般にダメージが及ぶ可能性もある。
悪影響が及ぶ範囲がどこまで広がるかわからない不安から、シルバーウイーク中に、ドイツ株だけでなく、欧州株全般が下落した。
ライバルの大失態が日本の自動車産業に単純にプラスとは限らない
ドイツ車は、日本車にとって、常に強力なライバルだ。ドイツ車は欧州で一人勝ち、さらにアジアでも販売を拡大していた。日中関係が悪化して中国で日本車のシェアが低下した時、代わりに販売を伸ばしたのは、ドイツ車や韓国車だった。韓国車は、性能面で日本車に届いていないが、ドイツ車は性能面で高い評価を得ており、常に手ごわい競争相手だ。
その強力なライバルが大失態をしでかしたわけで、表面的には日本の自動車業界にプラスと言える。ただし、VWの問題は、他山の石と言い切れない。日本の自動車業界もタカタ(7312)のエアバック問題など、未解決の品質問題を抱えているからだ。
エンジンや部品の共有化が自動車業界全体に広がる中、1つの部品の品質問題が、世界規模のリコールにつながるリスクが高まっている。また、たった1つの品質問題から始まって、世界各国から次々と課徴金を科せられたり、集団訴訟を受けたりして、巨額の損失が発生するリスクが高まっている。
今回はVWの問題だったが、品質問題で巨額の損失をこうむるリスクは、日本の自動車業界にも常にある。
次世代自動車の開発競争では日本にメリットも
日本の自動車業界に追い風とはっきり言えるのは、環境性能のすぐれた次世代車の開発で、日本のハイブリッド技術が見直される可能性があることだ。次世代環境車の開発で、ドイツと日本は熾烈な争いを展開してきた。日本はトヨタ自動車(7203)を中心に、ハイブリッド車の開発で世界の最先端を走っている。
一方、ドイツなど欧州勢は、クリーンディーゼル車の開発で先端を走っている。近年、クリーンディーゼル車の性能の向上が著しく、ハイブリッド車の普及を目指す日本にとって脅威となっていた。そのクリーンディーゼル車の性能が、不正にかさ上げされていたことが明らかになったことは、敵失とはいえ、ハイブリッド車の普及に追い風と言える。
ただし、次世代自動車におけるハイブリッド車のライバルは、クリーンディーゼル車だけではない。電気自動車との競争も、まだ続いている。電気自動車の性能向上も、ハイブリッド車にとって脅威となっている。
電気自動車の重大な欠点は、充電時間が長いことと、航続距離が短いことだった。近年、1回の充電で200キロメートル以上走る電気自動車が出てきたこと、さらに電気自動車の応用で「自動運転車」の技術開発が進んでいることが、電気自動車の魅力を高めている。
日本株は買い場の判断を継続
日本の景気・企業業績のゆるやかな回復が続くと考えていること、日本株はPERで14倍台まで売られており割安と判断されることから、日本株は買い場の判断を継続する。ただし、世界的なリスクオフ相場は今しばらく続きそうであり、日本株が本格的な反発上昇相場に入るまでには、まだ時間がかかりそうだ。
欧米の長期金利は、足元、米利上げ懸念から上昇基調だが、いずれ世界的なインフレ鎮静を反映して、低下に向かうと予想している。そうなれば、世界の株式に追い風と言える。