従業員の健康状態は経営に直結
ブラック企業という言葉が、会社を評価する言葉として一般化してきていると感じます。2008年に出版されたブラック企業を題材にした小説が人気を集め、翌年には映画化もされました。2008年はリーマンショックが起こった年であり、厚生労働省の調査によると1996年には43万人だったうつ病罹患者が2008年には104万人に増えたといいます。
ブラック企業とは、もともとは反社会的な組織との結びつきを指していましたが、今では長時間労働や給料の未払いなど、従業員に対して極端な負担を課す企業姿勢を揶揄(やゆ)する言葉として使われています。
厚生労働省も対策を強めており、雇用者である企業側の責任はますます強くなってきています。長時間労働を経営者が知らなかったということは通用しません。従業員の労働実態を把握する義務が経営者にはあるからです。
しかしながら、厚生労働省に言われるまでもなく、多くの経営者は従業員の一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮してくれることを願っているはずです。従業員が疲弊していたり、体調不良で休みがちでは、良い成果は期待できないからです。
肩こり、腰痛など、会社を欠勤するほどでもない不調な状態を「プレゼンティズム」といいます。健康日本21推進フォーラムが実施した「疾患・症状が仕事の生産性等に与える影響に関する調査」では、プレゼンティズムの状態では、生産性が100点中70点、やる気や集中力が65点になってしまうという調査結果があります。100人の会社で70人分のパフォーマンスしか出ない状況は、経営の大きな損失です。
従業員の健康状態は経営に直結することは分かっているはずなのに、応が後手に回ってしまう――。この連載では、会社が従業員の健康を支援することで、従業員のエンゲージメント(愛着心)を高めることができる「健康経営」について、理解を深めるとともに、ITを使った健康支援の手法などを解説していきます。第1回は健康経営とは何か、識者に話を聞きながら、現在の国の推進状況とともに紹介します。
「健康経営」とは何か
この3月25日に経済産業省が東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」を選定し22業種22社が選出されました。健康経営が注目されている背景には、少子高齢化による医療費の高騰、人口減少社会に生じている人材不足で労働生産性の低下があります。
働く人を健康にすることで、健康寿命を伸ばし、医療費を抑制し、また高齢者、女性、外国人など多様な人の活躍の場を広げることで企業活力を高めるためにも、国を挙げての「健康経営」というテーマの推進が進められています。安倍晋三総理が9月24日の記者会見で、「予防に重点化した医療制度へと改革を進め、企業による健康経営、健康投資を促すような仕組みをつくる」と、健康経営に言及するなど、注目が高まっています。
しかし、健康経営といってもその言葉は漠然としていて、利益に結びつくイメージがないと思っている人も多いと思います。
健康経営を推進する企業側のメリットは、会社が従業員の健康を支援することで、従業員のエンゲージメントを高め、プレゼンティズムの軽減により高いパフォーマンスを発揮することが期待できる点です。これは企業の社会的責任(CSR)や共通価値の創造(CSV)としても意義のあることです。