興味深いGoogleの責任者獲得
「Googleが、ロボットカー開発の事業責任者として、現代自動車の米国(支社)CEOを務めた経験もある元エンジニアを雇い入れた」というニュースが9月半ばに流れていた。
John Krafcikというこの人物、約14年間在籍したFordでは人気車種「Expedition/Navigator」(*2)の開発でチーフエンジニアを務めたとか、現代自動車ではCEOとして売上と市場シェアの記録を塗り替えたといった実績が各媒体で紹介されていた。
また、1988年には日本の自動車メーカーの製造プロセスを研究した論文("Triumph of the Lean Production System"という題名)をまとめて、「lean production」(「かんばん方式」のことだろうか)という言葉の定着に一役買った人物という紹介をしているものもあった(*3)。
そういう自動車業界のインサイダーがGoogleで具体的にどういう仕事に取り組むのか、というのはかなり興味深い疑問の1つ。「ウチは自動車メーカーにはならない」「『餅は餅屋に』で、車輌の製造は外部の提携先に任せる(われわれ素人が、彼らの真似をしようなんて、馬鹿げたこと)」などというプロジェクト責任者(Chris Urmsonというカーネギーメロン大出身のロボット研究者)の発言が報じられていたのが昨年暮れのこと(*4)。
そして今年8月のはじめには、このUrmsonが「1月にデトロイトであった北米自動車ショーの際に、General Motors、Ford、 Toyota、Daimler、Volkswagenといった各社と話をしたけれど、いまのところ提携話はひとつもまとまっていない」といった話も報じられていた(*5)。
Googleがこの(少なくとも今のところは難航していそうな)提携先探しで、Krafcikの知見や人脈に大いに期待していそうなことは比較的想像がつきやすい。同時に(たとえばTeslaのような)車輌の内製をやらないとすれば、Googleは「どんなものをつくればいいか」だけでなく、「それをどうつくればいいか(How)」といった部分まで提携先にアドバイスすることになるのかもしれない(このあたりは門外漢には想像がつきにくい部分だが)。
それでひとつ思い出したのは、以前に目にしたJean-Louis Gasséeの自動車設計に関するコラム。
Gassée(Be創業者、元Apple幹部)は2月下旬に出した「Apple Car: Three More Thoughts」というコラムの中で、Apple時代に出かけたGiorgetto Giugiaro(カーデザイナーのジウジアーロ)のスタジオ(Italdesign)での思い出を記していて、「Giugiaroが『自分(=工業デザイナー)の仕事でもっとも肝心なのは、製品自体の造形ではなく、(製品の)製造プロセスを設計する、つまり製造ライン("factory")を考えること』などと説明していたのが最も印象に残っている」といった趣旨のことを書いていた(*6)。
こういうものを目にすると、「日常業務を部下に譲ったJony Ive(Appleのデザイン責任者)はいまごろ自動車の組み立て方を習いに、あちこち出かけているのでは?」といった考えも頭のなかに浮かんでくるが、これは当方の勝手な想像に過ぎないのでとりあえず棚上げとする。