事業者が提供するバックアップしか利用できない
マルチクラウドを利用する場合に、企業が直面することになるバックアップの問題の根幹はここにある。
クラウド事業者がそれぞれ提供するバックアップサービスのみしか利用ができないため、ユーザーの希望するバックアップ先を指定できない、バックアップを可搬性のある形式で他の環境に移行できないということになる。
さらにネックとなるのは、バックアップサービスに紐づくストレージサービスの利用である。ストレージサービスの費用にデータ転送量の要素も含まれる場合、かかる費用を気にしてしまい、バックアップサービス自体の利用ができないという声も多い。
技術的な側面においても、企業が複数のクラウドのバックアップサービスを使うということになると、それぞれのバックアップ・復元方法を熟知する必要があり、限られた人間にしか運用できず、負荷の非常に高い運用になってしまうリスクがある。
マルチクラウドになると、異なるクラウド間のシステム移行も頻繁に行われることが想定されるが、それぞれのクラウド内に閉じたシステムバックアップでは、かんたんで短時間のシステム移行の実現は非常に難しい。
マルチクラウドの利用に適したバックアップ・復元のソリューションがなければ、マルチクラウドの利点となるクラウド間のシステム移行も難しくなる。また、バックアップデータの可搬性や保管場所の分散化は事業継続改革や災害復旧(BCP/DR)対策において必須項目といえる。
完全マネージドのプライベートクラウドからパブリッククラウドの利用に企業が移行しているなか、クラウド利用の責任はこれまで以上に利用者である企業に求められる傾向にある。クラウド利用によって可用性が向上してもOS単位のシステム障害は起こり、それによってデータを失う可能性はあるということを十分に意識したバックアップソリューションが必要となる。
後編では、マルチクラウドの利用に適したバックアップ・復元ソリューションについて言及する。
- 古舘 與章
- アクロニス・ジャパン株式会社 リージョナル プロダクト マネジャー
- 複数の回線キャリア、ISPにて法人向けサービスのプリセールスから新サービス企画・開発まで幅広く従事。当時の専門領域は、ネットワーク、モバイル、セキュリティ、クラウドで、金融、製造業向けの案件を主に担当。その後、2012年9月にアクロニス入社。コンシューマおよび法人向けバックアップ製品、法人向けモバイル、クラウドバックアップソリューション、新事業および新製品の立ち上げを担当。