「情報通信白書」に見る情報通信政策の過去、現在(3) --ICTによる雇用への影響

田島逸郎

2015-10-28 07:30

 情報通信白書を読み解く連載の3回目。前回までは「平成27年度情報通信白書」の本編のうち、通信自由化からの歴史や2030年の未来像について扱った。今回は本編第二部「ICTが拓く未来社会」を解説する。ICT(情報通信技術)はさまざまな社会課題を解決するポテンシャルを持っている。2015年の現状を踏まえて地域、暮らし、産業の3点についてICTがどう適用されていくかについて取り上げる。

地域の未来とICT

 さまざまな産業がグローバル化する一方で、多くの産業は地域という制約のもとに活動をしている。また、災害への対応など地域の力が発揮できる局面も多く、その点で地域の活性化は重要である。一方で、東京などの大都市圏への一極集中が進んでおり、地方の人口は減少している。その中で、ICTによってどう問題を解決し、活性化してゆくばよいのだろうか。

 まず、全体的な傾向として、2010年から2013年にかけて東京圏で転入超過になっており、名古屋圏、大阪圏では横ばい、他府県の合計では転出超過となっており、地方から東京圏への人口の移動が見られる。特に若者の移動が多い傾向にある。その背景として、雇用環境などの経済環境が挙げられる。若者から見て雇用が足りず、企業から見たら人手不足という傾向にあり、良質な雇用の不足から東京圏への移住が活発化すると考えられる。これに対し、ICTのもたらす生産性の向上、地域外とのモノ、サービスや人の流通、新しいワークスタイルなどが役立つと考えられる。

 企業における利用事例では、医療と福祉、小売業などの「地域系企業」でのICTの導入は、スマートフォン、インターネット取引などさまざまな点で地域系以外の企業より少ない傾向にある。業務領域では仕入、発注、調達や生産と製造、商品管理など、管理や業務の標準化、情報共有に関わる面で導入が進んでいない。一方で、効果は地域系企業でも出ている。売り上げとの関係では、ICTをよく活用する地域系企業は、売り上げを増加傾向と回答する割合が多く、地域系企業以外でも同じ傾向にある。ICTの活用は地域系企業にとって業績改善や雇用の質の改善につながると言えるだろう。実例では、介護老人保険施設での多職種の協働を促進するシステムの導入や、農業のノウハウの可視化、顧客データの分析、ネット通販などは地域系企業でも効果を上げている。


情報システムの導入状況 出典:「平成27年版情報通信白書」(総務省)

農業生産技術の見える化 出典:「平成27年版情報通信白書」(総務省)

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