頑張ってやるものじゃない--一橋大学 楠木教授が語る「イノベーションの本質」 - (page 2)

大河原克行

2015-10-16 07:30

 IBMが技術的に先行するBurroughs(現Unisys)に対抗するために取った手段が、コンピュータを会計機として利用したり、コンピューティングパワーで訴求したりといったことではなく、マネジメントインフォメーションシステム(MIS)として提案したことにあると指摘。「コンピュータを企業の会計や給与計算、顧客台帳管理に使うという提案をしたのがIBM System/360。これもイノベーションである」

 楠木氏は、「イノベーションとは、新たなカテゴリを作るものである。男女というのはカテゴリである。そこに新たなカテゴリを作るのと同じこと」と前置きし、「これこそが、カテゴリイノベーションであり、ウォークマンは、新たな音楽の聴き方を創造し、その結果、固有名詞から一般名詞となり、新たなカテゴリとして定着した。当時、『俺のウォークマンは松下だぜ!』といった言い方がされていた」などとした。

楠木建氏
一橋大学 大学院 国際企業戦略研究科 教授 楠木建氏

 同じようにカテゴリイノベーションを起こした結果、一般名詞として定着した例に「私のiPodはソニー」「これをゼロックスしてくれないか」「わが社のIBMは富士通です」「ヤフーでググる」などを挙げた。

イノベーションは思いつくか思いつかないか

 楠木氏は、「技術進歩はできるかできないのかの勝負。イノベーションは思いつくかどうかの差である」と定義。だが、「企業の多くは、イノベーションよりも進歩が大好きである」とし、競合との差を進歩で埋める取り組みが多いこと、顧客からは製品や技術の進歩が求められるケースが多いこと、株主や経営層が前年比30%増などの進歩を見ようとする傾向が強いことを指摘した。

 「進歩には資産を投入するが、イノベーションには投資をしない。また、企業はイノベーションに向けて努力すると数値などを可視化し、結局、進歩競争を加速することになる。イノベーションを“見える化”すると“見えすぎ化”につながり、進歩にすり替えようとする『可視性の罠』が生まれる」

 可視性の罠として「十六茶」が売れた後に十八茶や二十一茶、四十八茶などが登場したことに触れ、「これをイノベーションとは呼ばない。可視化し、その次元の上で進歩しているに過ぎない」とした。

kintone AWARD 2015のグランプリには、「創業92年目のベンチャー企業を成長させる」取り組みで中島工業 BIリーダーの普天間大介氏が選ばれた
kintone AWARD 2015のグランプリには、「創業92年目のベンチャー企業を成長させる」取り組みで中島工業 BIリーダーの普天間大介氏が選ばれた

 楠木氏は、「そもそもイノベーションはめったに起きない。『今月中にイノベーション案件を5個出せ!』という指示はあり得ない。イノベーションを起こすには、頑張ってはいけない。頑張ってやるものじゃない。思いつくか思いつかないかということであり、しかも特定少数の個人が思いつくものである。非連続の中の連続、あるいは連続の中の非連続がイノベーションであり、人間の本性を捉えたものでなくてはならない」と説明。続けて「Facebookは自己愛という人間の本性を捉えたものであり、LINEは無駄話という人間が持つ本性を捉えたもの。10年後の未来を見越したものは進歩でしかない。平安時代や鎌倉時代の人も感動してくれるのがイノベーション」と語った。

 「なぜ、これが今までなかったのだろう、というものこそがイノベーション。サイボウズのKintoneもなぜこれまでなかったのだろうという製品である。面白い、あるいはやりたいといった内発的な動機から生まれるのがイノベーションである」

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