デジタル教科書

「ICT端末の健康障害を認識した上で活用を」--日本小児連絡協議会が提言

羽野三千世 (編集部) 2015年10月19日 13時35分

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 文部科学省は9月15日、「デジタル教科書の位置付けに関する検討会議」の第4回会合を開催した。同会議は、児童生徒が使用する「学習者用デジタル教科書」の在り方について、教育研究者、学校関係者、民間企業の教育ICT関係者で構成される17人の委員が検討を進めている。


「デジタル教科書の位置付けに関する検討会議」の第4回会合

 今回は、関係団体として、日本小児連絡協議会「子どもとICT~子どもたちの健やかな成長を願って」委員会委員で医学博士の山縣然太朗氏(山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座 教授)が、“ICTと子どもの健康問題”について提言。医学的な見地から、「ICT端末の利用に時間を費やすことで、睡眠が学習などほかの生活時間が不足する。教育現場に導入する際は、この悪影響を認識する必要がある」と指摘した。

VDT症候群やネット依存症のリスク

 山縣氏はまず、子どもがICT端末を使うことによる健康障害として、(1)長時間使い続けることによる「VDT症候群」「睡眠不足と運動不足」「ネット依存症」、(2)デジタルコンテンツの使用による「ゲーム依存」「行動、メンタルヘルスへの影響」、(3)情報伝達手段として使用することによる「コミュニケーション能力への影響」「社会性の発達への影響」――の3つを挙げた。


山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座 教授 山縣然太朗氏

 VDT(Visual Display Terminal)症候群とは、PCやスマートフォンなどのコンピュータディスプレイ(VDT)を使う作業を長時間続けることで引き起こされる眼精疲労や視力低下、肩こり、頭痛、イライラ感、抑うつ症状などである。山縣氏によれば、「大人だけの疾患ではなく小児でも報告され治療されている」という。

 労働者のVDT症候群防止策については、厚生労働省が2002年に「VDT作業が連続1時間を超えないようにすること」「連続作業と連続作業の間に10~15分の作業休止時間を設けること」とのガイドラインを出している。ただ、これはあくまで成人向けの指針だ。「子どもは大人のミニチェアではなく、発達段階にあることを考慮しなくてはいけない。教育現場でICT端末を使うにあたっては、子ども向けの新たなガイドラインが必要」(山縣氏)

 山縣氏は、子どものネット依存症についても懸念する。現在、ネット依存症の診断基準は確立されていないが、米国のKemberly Young博士が考案した「インターネット依存度テスト」が広く使われているという。山縣氏らの研究グループが山梨県K市の中学生を対象にYoung博士の依存度テストを実施したところ、男子の15%、女子の21%が「問題あり」に分類された(総務省の全国調査では中学生の43.2%が「問題あり」に分類されており、K市は、ネット依存度の高い中学生の割合は少ない傾向にある)。

ICT端末の長時間利用が問題

 さらに、K市の全中学生を対象とした調査では、「ネット使用に問題があり」とされた生徒は、24時以降に就寝する割合、うつ傾向にある割合が、ネット使用に問題がない生徒と比較して有意に高かった。山縣氏は、ネット依存症に関する研究文献を引用しながら、「睡眠障害はほぼ必発で、児童生徒は遅刻、欠席、成績低下など学業に影響を与える」「気分調整ができない、規範意識の欠如や攻撃衝動があるなど心理的、社会的問題を抱える」「脳神経の障害をきたすとの報告もある」と説明した。

 その上で、学習者用デジタル教科書を検討するにあたり、日本小児連絡協議会として、学校、ICT事業者、保護者に対して次のように提言した。

  1. 学校では、ICTの使い過ぎによる健康障害やネット依存について学ばせましょう
  2. ICT事業者は、不適切なICT利用が子どもの心身の健康や健やかな成長発達に悪影響を及ぼしうることを利用者に伝えるとともに、その対策を講じましょう
  3. 保護者は、不適切なICT利用が子どもの成長発達や心身の健康に悪影響を及ぼしうることを認識し、責任をもってICT端末を管理しましょう

 「子どものICT端末利用で明らかなことは、そこに時間を費やすことで睡眠や学習などほかの生活時間が不足することで悪影響が出ることだ。健康面での悪影響があることを認識した上で、教育現場での活用を考える必要がある」(山縣氏)

紙とデジタルは当面併用、教育効果の検証は導入後

 5月にスタートした「デジタル教科書の位置付けに関する検討会議」は、当初、デジタル教科書に関する法制度、実装すべき機能、教育効果、導入に係るコスト負担などを幅広く検討課題に挙げていた。第4回の会合の場で、座長の堀田龍也氏は「当面講ずべき措置と、実施に向けて中長期的に検討していく必要がある措置とに区別して議論していくことが必要である」と述べ、今後の検討会議での論点をまとめた。

  • デジタル教科書と紙の教科書の関係について
    紙とデジタルの特徴に一長一短があることを踏まえて、少なくとも当分の間は、デジタル教科書は紙の教科書と併用を前提とする(これが適当かどうか検討する)。
  • デジタル教科書の範囲について
    デジタル教科書にどのような機能を付加するか(拡大、音声再生、アニメーション、参考資料、書き込み、作図・作画、学習履歴の保存、正答比較などが考えらえる)。このうち、少なくとも「参考資料、書き込み、作図・作画、学習履歴の保存、正答比較」については、教科書として位置付けることが不適当だと考えてよいか。
  • 教科書(紙、デジタルを含む)の意義、役割について
    次期学習指導要領で、アクティブラーニングの重要性、小学校での英語の教科化が議論されていることを踏まえて、教科書がどうあるべきかを検討する必要がある。
  • デジタル教科書の導入による効果・影響について
    デジタル教科書の使用そのものによる教育効果と健康への悪影響への検証は、導入後においてしか実施できないことから、導入後に検証を実施する。
  • デジタル教科書の質の担保
    デジタル教科書特有の検定の課題として、「紙よりも多くの情報が盛り込める」「リンクを張った外部サイトの内容の検定」「動画や音声の検定」などがある。検定のスケジュールなどを踏まえて、現実的に検定が可能な範囲を検討する。

 「当面は、法律改正にまで踏み込まず、今ある紙の教科書をデジタル化する場合の課題解決を考えていく。学校のICT環境整備についてはこの検討会議の直接的なミッションではないが、教科書のデジタル化が進むためにも整備の推進に強く期待したい」(堀田氏)

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