今回は、松岡功さん風のタイトルにしてみました。ビッグデータやIoTの広がりによりデータ活用が話題になり、多くの記事のタイトルなどに“データ活用”や“ビッグデータ活用”という文字が踊ります。
しかし、欧米ではデータ活用という言葉がトレンドになっているとは聞いたことがありません。米国の人に分かるような英語に訳するのも難しかったりします。それは、「何のため」のデータ活用かという視点がかけているからだと思います。また、データは過去も活用してきたわけですが、今話題のデータ活用と「何が違うか」という点もクリアではないと思います。
米国でデータ活用に関連したサーチワードとして、一番多いのは何かご存知ですか?それは“Analytics”です。データ活用ではなく、Analyticsが話題にされているのです。では、その2つの違いは何かを解説したいと思います。
「Analytics=データ解析」にあらず
前回の記事でも触れましたが、Analyticsは、Analysisと語源が同じ、古代ギリシャ語で「(結び目を)すっかりほどくこと」を意味します。よく、Analyticsをデータ解析やデータ分析と訳していることがありますが、意味からすると外れていると言わざるを得ないです。データ活用をして何かをひもとくということがAnalytics。
話しは少しはずれますが、統計も同じような意味があると、以前、慶応義塾大学のある教授に教えていただいたことがあります。統計の起源については、統計局のこのサイトが参考になります。ピラミットの建築で利用されていたように、その歴史の長さを含め、かなり興味深いです。
私の定義するAnalyticsとは、「データ分析、活用によって今日の課題を解決し、明日の機会を最大化する手段」です。目的があってのデータ活用だと思います。まぁ、そういう意味では、ZDNet Japanさんにつけていただいた私の連載テーマ「データアナリティクスの勘所」も微妙な感じですが、無視していきましょう。
IT部門がAnalytics導入を主導できない訳
私がSAS Institute Japanに入って一番新鮮だったのは、IT部門よりむしろ、ビジネス課題を直接抱えているビジネス部門へのソリューション提案がほとんどであることでした。
以前Carnegie Mellon大学の有名教授が日本に来たときに習ったソリューションの定義は、「顧客のペインポイント(ビジネス課題)を出発点に、それを解決するために、製品を基盤にサービスを統合し、複数のお客に繰り返し提供できるもの」です。ですから、顧客のビジネス課題にサイエンス、データ、ITからなるAnalyticsを使ったソリューションでその課題を解決するのです。
この分野は、TCO(総所有コスト)ももちろん重要ですが、それらのソリューションによって、ビジネス価値をどれだけ高くするかが導入のポイントになります。逆に言いますと、ビジネス課題が特定されていない場合には、Analyticsを導入しても効果が薄いとなります。
多くのIT部門でAnalyticsの導入や活用において主導的な立場がとれていない理由は、そこにサイエンスという特別の能力が必要されるということに加えて、長年IT部門が課題と言われていた業務理解と解決が求められるためです。
最近ハードウェアを販売されている方と話す機会が何回かあったのですが、皆さん「ビジネス価値はスピード(のみ)です」ときっぱりおっしゃっていたのが、少しおかしかったです。確かにスピードは大事です。バッチで実行していた処理が数秒で終わればビジネスモデルはガラッと変わります。しかし一般的に、スピードのその先には、収益、顧客満足度、新規顧客獲得など更なるビジネス価値をもたらす必要があります。
Analyticsを自動車の運転に例えると・・・
ここからは、Analyticsの種類について詳しく解説します。
米国の調査会社であるIDCの定義によれば、「ビジネスアナリティク」は、大きなカテゴリとして、(1)データウェアハウスマネージメントプラットフォーム、(2)今話題のマーケティングオートメーションや会計パフォーマンスなどのパフォーマンス管理/アナリティクスアプリケーション、(3)ビジネスインテリジェンス(BI)ツール、およびその他もろもろから構成されます。
BIツールは、さらに「エンドユーザークエリ」「レポーティングとアドバンスドアナリティクス」の2つに分割されます。
前者のエンドユーザークエリは、一般にはBIと呼ばれることが多い分野で、過去のデータをもとに集計処理をしてレポートを作成したり、インタラクティブにデータを検索したりします。以前はオンライン分析処理(OLAP)やレポートツールが中心でしたが、昨今はSAS Visual Analyticsのようなビジュアライゼーションの製品が急成長しています。しかも、OLAPに必要とされるスタースキーマの設計なしに、セルフ型でエンドユーザーがスキーマを設定できます。
BIは、過去を分析し、写しだすということで、私はよく車の運転に例えて「バックミラー、サイドイラーから見える風景」と表現します。未来をみるために、過去を理解することも大事だと思います。
後者のアドバンスドアナリティクスは、名前のとおり、統計や予測分析などのサイエンスをベースにした高度なアナリティクスです。今話題の機械学習、統計ツール、データマイニング、フォーキャスティング、最適化(オプティマイゼーション)などのツールが入ります。
自動車に例えると、最新のミリ波レーダーによる運転アシスト機能のようなものでしょうか。自動運転技術ではないですが、うまく使えば、意思決定者の判断をサポートして、経営を強力に支援します。アドバンスアナリティクスをうまく使っている企業ほど業績がよくなるという調査データも多数あり、企業の差別化には今後ますます重要になります。
最近面白いのは、Analytics In Designです。製品やサービスを作るときにAnalyticを前提で設計するということです。「テレマティックス保険」などがAnalytics In Designの代表例でしょうか。自動車の加速度センサやGPSのデータを分析して、距離だけでなく、運転手の特性などの使用パターンで自動車の保険料金を算出するというもので、Analyticsなしではできないソリューションです。
Analyticsという言葉が日本でも普及したときに、データ活用も一段高いところにいけるような気がします。