IBMは10月25日から29日までの5日間、ネバダ州ラスベガスでデータ分析から得られるインサイト(洞察)に焦点を当てたイベント「IBM Insight 2015」を開催している。期間中は世界各国から約1万5000人のユーザー企業やパートナー企業が集い、200超のセッションが開催される。日本からも約200人が参加しているという。

テーマは「Lead in the Insight Economy」。基調講演でもインサイト(洞察)の重要性が繰り返し強調された
「Lead in the Insight Economy(データ分析による洞察でビジネスを捉え、成功を得る)」をテーマに掲げた同イベントの主役は「Watson」だ。IBMではWatsonを単なる人工知能ではなく「コグニティブ(認知)コンピューティング」と位置付けている。
10月6日には、2000人規模のコグニティブ事業部門「コグニティブビジネスソリューションズ」を設立し、Watsonを中心とした機械学習やデータ分析に関するコンサルティングに注力していく姿勢を明確にした。IBMでは「ビジネスインサイトをすべての顧客に提供すべく、Watsonをソリューションのプラットフォーム(コグニティブプラットフォーム)にする」としている。

IBM アナリティクス部門統括シニアバイスプレジデント Bob Picciano氏
実際、同社分析部門のビジネスは堅調だ。2015年第3四半期における分析部門の売り上げは、前年同期比20%増となった。来年の同四半期には、前年同期比で30%増になると予測している。
10月26日に行われたゼネラルセッションでは、アナリティクス部門統括でシニアバイスプレジデントを務めるBob Picciano氏がホスト役を務め、パートナー企業のWatson活用事例を紹介するとともに、Watson担当でシニアバイスプレジデントを務めるMike Rhodin氏が登壇し、Watsonの今後を展望した。
Watsonでホワイトノイズを情報に“昇華”
セッション冒頭、Picciano氏はコグニティブコンピューティングについて、「単なるプログラミングではない。人間のようにデータ(情報)を取り込むことで学習、予知し、そして推論するものだ。時間を経ることで学習能力が高まり、その価値が上がっていく。多くの企業がデータ分析をビジネスの中核に据えようとしている状況において、コグニティブはビジネスの差別化要因になる」と訴えた。

Twitter データ戦略担当バイスプレジデント Chris Moody氏。「Twitterは(きちんと分析すれば)マーケティングデータの宝の山」と語る
コグニティブコンピューティングの価値を左右するのは、学習させるデータ(情報)量である。どんなにすぐれた“知能”であっても、分析するためのデータがなければ意味がない。2014年10月、IBMはTwitterと提携し、ビジネス向けデータ分析の分野で協業していくことを発表した。
Twitterのバイスプレジデントでデータ戦略担当を務めるChris Moody氏は、「Twitterは世界最高の検索可能なデータアーカイブだが、学習プロセスが必要であると考えた。われわれはコンシューマー(を対象とした)企業だが、パートナーには、エンタープライズで強力な影響力を持つ相手がよい。それがIBMだ。現在Twitterは3万3000人のコンサルタントを擁するが、今後さらに1万人の人材を育てていく」と、IBMとの提携理由を語る。
IBMは4月、気象データを提供するThe Weather Companyと提携も発表した。天候データをWatsonなどで分析し、顧客に最適な“価値のある天候情報”として提供するサービスを開始している。IBMではWatsonをソリューションとして提供するだけでなく、データを所有する企業と提携し、データ分析から得られた知見や情報を“インテリジェンス”として顧客に提供していく方針だという。
Rhodin氏は、「多くのデータは非構造化データであり、可視化が難しかった。しかし、コグニティブプラットフォームは、音声やイメージをコンテキストにして理解できる。今までホワイトノイズだった非構造化データが意味のある情報になる」と語る。

IBM Watson担当シニアバイスプレジデント Mike Rhodin氏
では、Watsonが活用されるのはどのような産業、分野なのか。
Rhodin氏は「インサイトでビジネスを変革できるすべて業種」としながらも、すでに活用されている分野として医療、保険、金融、法務、小売りなどを挙げる。いずれも膨大な知識を必要とし、過去の知見を参考に現在の課題を解決しつつ、将来を予見する能力を求められる分野だ。
さらにIBMではWatsonをコアとしたエコシステムの構築を目指している。WatsonのAPIライブラリは、すべての開発者に開放されている。Watson APIを用いて作られたアプリケーションは、すでに100を超えているという。
「10月時点でWatson API数は30だが、2016年には2倍にする。エコシステムを構築することが、Watsonを進化させる上で大きな意味を持つ」(Rhodin氏)