――買収には、どのような意図があるのか。
ソーシャルメディアの分析はデータ同士を組み合わせて価値が出るので、流通を押えておくと差別化できるのではないかと思っています 。わかりやすい例で言えば、テレビドラマの分析をしようとしたときに、Twitterのデータから視聴率に近いものがみえます。でもそれは「ワー」とか「泣いたー」といったツイートなので、その理由までは読み取れません。ブログのデータと組み合わせて初めて、なぜそのようなツイートをしたのか、セリフやシーンから理由がわかります。
さまざまなデータがネット上にはありますが、データ活用の際、それぞれ個別にシステム接続の交渉をすると、交渉コストやシステムの開発コスト、運用管理コストがかかってきます。流通プレーヤーであれば、一回の接続であらゆるデータソースが手に入りますし、開発やメンテナンスも1回で済みます。流通プレーヤーには、そういった存在価値が出てきているんだと思います。
日本では、ホットリンクとNTTデータがTwitterデータの流通プレーヤーということになりますが、ホットリンクでは2ちゃんねるログの独占的な商用販売権を持っています。また、2006年からブログや日本中のオンラインのソーシャルメディアデータを収集し流通させているので、そういった面ではポジションを築いている自負があります。
――現在、ソーシャルビッグデータは企業でどのように活用されているのか。
まず、多くの企業がソーシャルメディアで情報を発信すれば、広告宣伝効果により売り上げが増えると勘違いされていた経緯があります。今では、企業はマーケティングのあらゆるプロセスでソーシャルのビッグデータを使っています。たとえば、これまで一カ月かかっていたアンケート調査や市場調査を、リアルタイムに実施することもできます。
具体的には、テレビCMを2つ作って、どちらのCMの効果が高いかといったことが、データを分析すれば翌日の朝には分かります。そうすると、効果の高い方のCMの露出比率を上げていく。CMは3カ月間などのスパンになりますから、投資対効果(ROI)や売り上げが大きく変わります。多くの企業はクチコミを増やして売り上げを増やそうとしていましたから、効果が出なかったわけです。
ソーシャルメディアはクチコミを広げるためのツールではなく、ソーシャルメディアを通じて、人間の頭の中を可視化することに使うことができます。これにより、リアルな店舗活動や製品開発活動、プロモーション活動を変えることの方が、リターンが大きいことに気づき始めたわけです。
まとめると、2009年頃のTwitterブーム当初は、会社がTwitterアカウントを持ってツイートすると売り上げが凄く伸びるといった「過度の期待」と「間違った使い方」、また大抵はウェブ担当が実務をしているという「社内体制が整っていない」「専任の担当者がいない」という現実もあり、ソーシャルメディア活用は成功しませんでした。一方、東日本大震災で(ソーシャルメディアの)有効性が見直されて、ユーザーも増えて、無視できないマーケットになりました。
最近は「調査や商品開発ツールとしての使い方」「社内にソーシャルメディアのための横断組織を作った」「データアナリストなど専任の担当を置いた」などの取り組み方により効果が出ていますから、なくてはならないものになっているわけです。たとえば顧客の医療メーカーは、商品を作る前の企画段階、商品をリリースする前のプロモーション、コンセプト作り、販売直後のリスニングなど、全商品に対してマーケティングのあらゆるプロセスで必ずソーシャルデータを分析しています。結果は直接経営者がみることができます。導入する目的が「売ること」からリスニングやABテストに変わったんですね。
ソーシャルメディアの活用はリスニングやABテストへ