近年、オープンソースのクラウド基盤ソフトウェア「OpenStack」でプライベートクラウドを構築する企業が増えている。日本で初めての開催となった国際カンファレンス「OpenStack Summit Tokyo 2015」では、NTTデータの講演の中で、OpenStackを使ってプライベートクラウドを構築したキリンホールディングスの事例が紹介された。

NTTデータの古賀篤氏
キリンではこれまで、スクラッチで開発した400個のシステムを2000台のサーバで稼働してきた。それぞれのシステムは複数のデータセンターで運用され、環境もWindowsやLinux、UNIXなどが混在した状態だった。その半数となる約1000台のサーバは、2015年から2016年に続々とサポート切れとなるタイミングにあった。
そのサポート切れとなるサーバの移行が喫緊の課題だったことに加え、ITインフラのコスト削減も強く求められていた。その解決策として、NTTデータはキリンに対して、OpenStackを利用したプライベートクラウドの構築を提案した。世界での豊富な導入実績と小さく始めて大きく拡張していける柔軟性、またベンダーに依存しないといった点も選定のポイントとなった。
NTTデータでは、従来は手作業で行っていた要件定義から設計、構築、テストまでの工程をOpenStackで自動化することで、サーバあたり75%のコスト削減効果が見込めると見積もった。

キリンとNTTデータが構築したOpenStack環境とは
「Kirin OpenStack」は、仮想マシンの展開からテスト、インベントリ管理までの作業を自動化したプライベートクラウドである。Kirin OpenStackは、OpenStack本体に加え、「Kirin EA」と呼ばれるウェブアプリケーションで構成されている。
Kirin EAは、OpenStackと利用者との間でインターフェースの役割を担っている。OSの種類やメモリ、ディスクの容量、ホスト名、ネットワーク、ミドルウェアなどを指定し、実行するだけで、Kirin EAとOpenStackが連携してシステムの構築プロセスを自動的に進める仕組みとなっている。

Kirin OpenStackでは現在、Windows Sever 2012 R2/2008 R2、Red Hat Enterprise Linux 6.6の3種類のOS、Java、Apache、Tomcat、Hinemos、JP1、SQL Server、セキュリティソフトなど11種類のミドルウェアを選択でき、800種類以上のパラメータを設定可能であるという。

NTTデータの柿沼基樹氏
またKirin EAは、インスタンスを立ち上げると同時に、ロードバランサ「BIG-IP」と運用管理ソフト「Hinemos」にその情報を自動で登録する。インスタンスが停止、再開した際も自動的に連動する。
サーバ環境のテストを自動化する機能は、テストツール「Serverspec」で実装している。各種パラメータやOS、ミドルウェアが正しく設定されているかなどをチェックする。必要に応じて独自のスクリプトを組み込んでおり、テスト結果は自動でレポートにまとめられる。Kirin EAで利用できるすべてのミドルウェアを搭載したLinuxを構築する場合、140種類を超える項目がテストされるという。
Kirin EAはさらに、インベントリ情報の収集も自動化している。“メタデータサービス”と呼ばれる仕組みを組み込み、サーバに付与されたメタデータを収集して、サーバリストを管理している。物理サーバから仮想サーバ(P2V)や、仮想サーバから仮想サーバ(V2V)への移行においても、手動でメタデータを付与することでKirin EAから管理できるようにしている。
Kirin OpenStackでは、2014年4月にリリースされた「OpenStack Icehouse」とVMwareの仮想化技術、仮想マシンの可用性を高める機能「VMware HA」を利用している。使用したコンポーネントは、仮想マシン管理の「Nova」、外部ストレージ管理の「Cinder」、ネットワーク管理の「Neutron」、認証基盤の「Keystone」のみ。できるだけシンプルな実装を目指したとしている。
「OpenStackを実装することが目的ではない。顧客の要望は、効率が良くて使いやすく、運用の容易な安定したプラットフォームを構築することだ。OpenStackは、エンタープライズレベルのIaaS基盤として十分に実装できる」(柿沼氏)