脳に似た機能を持つチップに考えられるもう1つの応用分野は、人工知能(AI)だ。ただし、メリーランド大学のJennifer Golbeck教授は、この技術はまだ新しいため、この分野に役立つのか、それとも害を与えるかは分からないと述べている。
「これまで、脳の仕組みにヒントを得た技術は役に立ったが、必ずしもそれらの技術が人間の脳と同じような働きをするわけではない」とGolbeck氏は言う。「脳にヒントを得たわけではない技術の方が役に立つことも多い」
- TechRepublic Japan関連記事
- JAL、IoTと人工知能で従業員満足度を向上--仮説の設定と検証を自動化
- リアルタイム分析の課題--データをどう組み合わせるべきか
とは言え、TrueNorthにはこの種のアーキテクチャにおける過去の試みとは違うところがある。例えばデータ中のパターンを素早く発見する能力は、自動運転車のようなある種のAIには役立つ可能性があると同氏は述べた。しかし結局は、AI研究者が実際に試してみて、何が起きるかを調べてみるしかないと同氏は考えている。
「この技術はあまりに異なっているため、われわれ研究者は新しいことをいろいろと試すことになるだろう」とGolbeck氏は言う。「これらの技術がAIを根本的に変えるのか、それとも既知のことを違う方法で実装できるようになるだけなのかは、今のところ分からない」
究極のニューロモーフィックコンピュータは、計算処理とメモリが完全に絡み合う、生物の神経網を模倣したものになるだろう。Shavit氏は、これは興味深いモデルであり、壮大なアイデアではあるが、問題も多いはずだと述べている。
Shavit氏によれば、そもそも、ニューロンがどのように計算しているのかについては、まだ科学者の間でも議論が続いている、基本的な研究課題がかなりある。
「今のところ、アルゴリズムをハードウェアに組み込んだ本物のニューロモーフィックコンピューティングデバイスを設計するには、ニューロンがどのように計算しているのかについて、知らないことが多過ぎる」とShavit氏は言う。
この分野で今作られているのは、基本的により高速かつ効果的に機械学習のプロセスを実行するためのプラットフォームだと、Shavit氏は言う。このプラットフォームは「素晴らしい結果」を生み出しており、「極めて役に立つ」という。しかし、必ずしも本物の脳がそのやり方で計算しているわけではない。
Shavit氏は、ハードウェアを変更すると、汎用のコンピュータに比べ、柔軟性や(生まれる可能性がある)新たなパラダイムを実装する能力が限定される可能性があると主張する。TrueNorthのハードウェアは、電力消費が低いという興味深い特徴を持っているが、大事なのは電力消費量が低いことで何が犠牲になっているかだと同氏は言う。
ニューロモーフィックコンピューティングによって、いつかは人間の脳を再現できるかもしれないという希望がある。Savit氏は、ハードウェアを作る前に、つながりを理解する必要があると話す。
「歴史を見れば、ソフトウェアが十分に優れていれば、専用のハードウェアでできることはほとんどすべて汎用のハードウェアでも可能だ」と同氏は言う。
Shavit氏は、ニューロモーフィックコンピューティングは「美しいアイデア」であり、将来取り組むべきことだとしながらも、考慮すべき要素があまりにも多いため、従来のモデルと比較しながら研究や調査を進め、神経網についての理解を深める必要があると述べた。また、取り組みを進める前に適切に機械学習アルゴリズムをコーディングする方法を知る必要があるとした。
「わたしなら、あまり期待しすぎることはしない」と同氏は述べている。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。