田中氏のビジネスモデル変革に向けた意気込みが伝わってくる会見だったが、筆者が1つ気になったのは、全体の売上拡大に向けた言及がなかったことだ。そこで、会見の質疑応答で「売上拡大を追求せずに、グローバル市場で競合するビッグベンダーと戦っていけるのか。その意気が感じられないが…」と、少々挑発的に聞いてみた。すると田中氏は一瞬ムッとして「私は強い意気を持って経営方針を説明したつもりだ」と言いながら、次のように答えた。
「ビジネスモデルを変革して体質を変えないと、たとえ外部環境が良くなって売り上げが伸びたとしても地に着いたものにはならない。まずは体質をスピーディに変え、戦うべき事業領域を明確にして売上規模も追求していく。それが、私が描いている持続的な成長へ向けたシナリオだ」
冒頭の発言は、このコメントのエッセンスである。田中氏が一瞬ムッとして発した言葉に、大いに期待したい。
「売上拡大も重要だが、そのためにも新たなビジネスモデルの構築を急ぎたい」 (NEC 遠藤信博 代表取締役執行役員社長)

NEC 代表取締役執行役員社長 遠藤信博氏
NECの遠藤信博社長が先ごろ、2015年度上期(2015年4~9月)連結決算とともに、2016~2018年度の次期中期経営計画の方向性について説明する記者会見を開いた。冒頭の発言は、10月から検討に入ったという次期計画における基本的な取り組み姿勢を示したものである。
次期計画について、遠藤氏はまず、これまで2年半取り組んできた現行の中期経営計画(2013~2015年度)を振り返り、当初テーマに掲げた「社会ソリューション事業への注力」「グローバル成長基盤の確立」「安定的な財務基盤の確立」の3点について「着実に進捗し、成果を上げつつある」とした一方、グローバル競争力などについては引き続き強化していく必要があると語った。
次期計画ではそうした現行計画の成果や課題を踏まえ、「成長の実証と海外注力事業の事業基盤づくり」を基本方針に掲げる構えだ。そのうえで成長のためのポイントとして、「お客様に価値を提供するValueプロバイダー」「営業利益率の改善をはじめとした財務基盤の強化」「グローバル競争力の強化」「コンプライアンス教育をはじめとした企業文化の醸成」の4つを挙げた。
次期計画における業績面での目標数値については、まだ検討に入ったばかりで今後詰めていくとしているが、筆者が気になったのは先に紹介した富士通と同様、売上拡大に向けた言及がなかったことだ。そこで、会見の質疑応答で「売上拡大についてどう考えているのか」と聞いてみた。すると遠藤氏は次のように答えた。
「次期計画では、前年度比3%程度の年間売上高成長率を想定しており、着実に伸ばしたいと考えている。ただし、売上拡大もさることながら、1つの強いプラットフォームをベースに多くのビジネスを展開する“One to Many”の新たなビジネスモデルの構築を急ぎたい。国内外で社会ソリューション事業を広げていくためには、そのビジネスモデル構築が決め手になる」
さらに、「現行計画において次なる成長のための基盤は8割方つくった。次期計画ではそれを完遂し、新たな取り組みにチャレンジしてNECのブランド価値を一層高めていきたい」とも語った。
その遠藤氏は今年度末で社長在任6年となる。果たして、次期計画も自ら先頭に立つのか、それとも新しいリーダーに託すのか。その点も気になる次期計画の説明だった。