ITで地域を改善する“シビックテック”広まる--オープンデータも後押し

山田竜司 (編集部)

2015-11-07 07:00

 アプリケーションの作成などを通じ、行政サービスの改善などを支援する団体「Code for Japan」のイベント「Code for Japan Summit 2015」が11月6日~8日に開催されている。

 Code for Japanは2013年に、市民参加型のコミュニティーから地域の課題を解決するためのアイデアを考えテクノロジを通じ、公共サービスの開発、運営の支援を開始し、3年目を迎える。

 人口減少社会である日本では、地方の経済的な疲弊や行政の財政難に対し、ITでの地方自治の効率化や問題解決が期待されている。Code for Japanはこれまでテクノロジを活用して住民自治を改善する取り組みである「シビックテック」活動を推進しており、Code for Japanに関連し、地域に根差した取り組みを支援する33の組織が生まれた。


 Code for Japan代表の関治之氏

 今回のイベントコンセプトは「スタート」という。これまでの活動を通じてわかったことは、シビックテックを推進する4種のステークホルダーである「課題を解決したい人」「技術を持っている人」「つなぐ人」「制度をつくる人」がコミュニティーを中心に同じような体験をしながら次の活動につなげることの重要さという。

 初日にイベント会場である豊島区役所旧庁舎に集まった4割は区役所の職員であり、イベントも新たな取り組みがスタートできる場になることを目的としている。

 基調講演に立った「Open Knowledge Foundation Japan(OKF)」代表の庄司昌彦氏は、シビックテックを進めるにあたり、日本でも行政機関が保有するデータを著作権や特許などの制限なしで利用できる「オープンデータ」の普及が進んでいると説明。日本をはじめ、G8がサミットでオープンデータの推進に合意している「オープンデータ憲章」に基づき、アクションプランが策定されており、メキシコやアルゼンチンなど他国も憲章にサインし、その動きが加速しているという。


Open Knowledge Foundation Japan(OKF)」代表の庄司昌彦氏

 オープンデータの世界的なイベントで、全世界で参加した222の地域のうち日本からは世界最多となる62の地域から参加者が集ったことから「日本にはシビックテックのカルチャーがすでにある」と言明した。

 産学官民がオープンデータに加えてシビックテックを通じてつながることは、多様性を受け入れることであると説明。閉鎖的な環境もオープンにして、他者が交わることにより解決に近づく可能性があるとし、産学官民がお互いの立場を超えて連携するシビックテックやオープンデータの可能性を訴えた。

 行政側でも、シビックテックを盛り上げ、税収ではまかえない領域を市民との連携やITの力で補おうとしている。


千葉市広報課 松島隆一氏

 千葉市で行政や地域の課題解決にスマートフォンを活用する取り組み「ちば市民協働レポート(ちばレポ)」などを担当する広報課の松島隆一氏はオープンデータを市役所内で推進する上で「一般に公開されているデータを誰でも使えるようにしようと言うと伝わりやすかった」と説明。市がシビックテックに連携する上でオープンデータが重要である点を強調した。より多くの人にシビックテックに参加してもらうために「市長室に市民を招待することもある」とし、有志を多く集めるために「街を知る」「街を好きになる」「街に参加する」など段階を分けてどういった人に同じ意識をもってもらえればいいかを考えながら巻き込む市民を増やしているとした。


横浜市金沢区の職員 石塚春香氏

 一方、市民の協力が得られない場合はどうしたらいいのか。横浜市金沢区でオープンデータを使い、子育て情報ポータルサイト「かなざわ育なび.net」を運営する職員の石塚春香氏は、金沢区だけでは技術者などの協力が地元のリソースだけでは対応しきれない場合には、他の地域の人手を借りていると説明する。おカネではなく「施設を貸し出す」「ウェブページで告知に協力する」といった、リソースを差し出して市役所内に「何か手伝えないか」という考えが共有できるようになったことが市民連携や企業連携を後押ししていると説明した。


豊島区の職員 高橋郁夫氏

 豊島区役所の高橋郁夫氏は、あるシンクタンクが発表した全国自治体の将来人口推計で23区の中で唯一、同区が「消滅可能性都市」とされたことを受け、危機感を持ってシビックテックを推進しているとして、会場を貸し出したことを明かした。

 また、高橋氏によると、地理情報システム(Geographic Information System:GIS)に関連するハッカソンイベントに街路樹のオープンデータをだしたところ、季節ごとの「おすすめ散歩ルート」を推奨してくれるアプリが出てきたとし、データは「こちらが出せば出すほど思わぬ形で返ってくると思っている」と語った。

 庄司氏は(シビックテックによる)地域の改善が広がるのはITによるものではなく、未来に対する危機感と地域を変えようとする行動の変化と説明し、シビックテックの広がりに手ごたえを感じているようだった。

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