生産性と労働力との相関関係の崩壊
経済成長は、雇用機会の獲得や所得の増加につながってきたが、デジタル化やスマートマシンの進展は、労働者の繁栄には必ずしもつながらないことが予想される。つまり、景気の拡大と雇用の伸びは、必ずしも連動しない状況となる。
例えば、ドイツ政府などが進めている工場などをネットワークで接続し製造業のデジタル化を推進する「インダストリー4.0」は、製造業の生産性を高めることなどで注目が集まっているが、雇用の伸びとは必ずしも一致しない。
「インダストリー4.0」の取り組みは、雇用の観点から考えると、ドイツでは深刻化する労働力不足と高い労働コストへの対応とも言える。ドイツの製造業の労働組合の全金属労組では、デジタル化を進めば、雇用に大きな影響を与えると考え、雇用の確保の観点から「インダストリー4.0」の推進には反対の姿勢を示している。
こういった状況は、企業の生産性を高める一方で、企業経営や政府の雇用政策は難しい舵取りを迫られているといえるだろう。
進むスマートマシンとの「分業」
スマートマシンは、人間のキャリアパスには大きな影響を与えることが予想されるものの、全面的に置き換えが進むことは当面考えられない。今後、企業が考えていくことは、スマートマシンとの「分業」を進めていくことだ。
たとえば、金融機関では、IBMの人工知能「Watson」の導入が進んでいる。おもにコールセンターにおいて、利用者の問い合わせの対応に活用されている。
Watsonは問い合わせをしてきた利用者とオペレーターとの会話を理解し、適切な回答を提示するなど、オペレーターが利用者から受けた質問をキーボードで入力すると、 いくつかの回答候補を提示するといったことができる。ウェブサイトのチャット機能では、利用者からのチャットによる質問にWatsonが回答し、回答できないものだけコールセンターのオペレーターが対応する。
スマートマシンにできることは、スマートマシンに移行し、高度な自動化を進める一方で、一部人間も介在させることで、相乗効果を出し、生産性を高めるといったアプローチが増えていくだろう。
スマートマシンへの「分業」の比率を高め、スムーズにバトンを引き継ぐとともに、人間にしかできないコアな事業領域に人間のリソースを集中させることで、企業の競争力向上につなげ、かつ、働きがいにもつなげていくことが重要となっていくだろう。