伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は11月16日、新潟市のウォーターセルが提供するクラウド型農業生産管理ツール「アグリノート」と連携した、農産物の輸出支援サービスを開発したと発表した。
同サービスでは、国内農産物の流通業者や輸出業者向けに、アグリノートでの作業記録や使用農薬の情報などから、ビッグデータや人工知能(AI)技術を活用して農産物の残留農薬を成分ごとに推計し、世界各国への輸出可否を判定できる。
農産物輸出支援プラットフォームのイメージ図(CTC提供)
MRLとは残留農薬の最大残留基準値(Maximum Residue Limit)のこと。国内では、その農薬を一生涯にわたり毎日摂取し続けても、人に危害を及ぼさないとみなせる体重1キログラム当たりの1日摂取許容量(ADI:Acceptable Daily Intake)の範囲内で農産物毎に設定されている。
ウォーターセルは2011年7月に設立。農業情報プラットフォームやクラウド型農業生産管理ツール「アグリノート」を開発、運営している。2013年度には、経済産業省の「がんばる中小企業・小規模事業者300社」にも選定された。
同社のアグリノートは、スマートフォンやタブレット端末から現場で農作業を記録できるクラウド型の農業生産管理ツール。地図データや写真を活用して簡単に作業を記録でき、自動集計や生育記録のグラフ化などで生産計画の策定も支援。
農薬については種類や散布回数などを農地毎に把握し、流通業者を含めた関係者で共有ができ、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC:Food and Agricultural Materials Inspection Center)が提供する農薬データを利用した成分レベルで把握できる。
一方のCTCは、中長期でのビジネス創出を担う「イノベーション推進室」を中心に、豊かな社会の実現に向けてITを通したビジネスイノベーションの創出に取り組んでいる。
海外への販路拡大による農業への貢献という視点で農産物輸出支援サービスを開発した。2016年2月から農産物の生産サイクルに合わせて1年間の実証実験を行い、2017年度での商用化を目指している。
先の環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の大筋合意に伴い、政府が推進する「攻めの農業」として、国内農産物の輸出政策に注目が集まっている。だが、海外各国では汚染物質や残留農薬、食品添加物などについて、農産物を含めた食品安全に関する基準が異なり、農薬に関しては気候・風土などの違いにより使用する農薬の成分や使用方法にも違いがあるため、各国の基準に対する適合性の把握が困難な状況にあるのが現状という。
CTCが開発した農産物の輸出支援サービスの対象ユーザーは流通業者や輸出業者。ウォーターセルのアグリノートからの農作業データを活用して、各国の残留農薬の基準と国内で使用されている農薬についての情報をもとに、ビッグデータやAIを活用して農産物を輸出する際のリスク判定を支援する。各国の残留農薬に対する基準も日本の農薬に合わせて情報提供するため、残留農薬の検査や防除歴の作成のサポートもする。
現在、各種の情報を基に残留農薬を判定するプロトタイプの開発が完了しており、CTCとウォーターセルは2016年2月から共同で輸出支援プラットフォームの有用性やビジネス性について実証実験を予定している。
今後は、海外基準に適合する農産物の育て方や代替農法のAIを活用したアドバイスを含めて、生産者向けの機能拡充も視野に、農産物輸出支援サービスを通して国内農業の発展に貢献していくとしている。