ベトナムIT産業の構造的な問題
情報通信省から来賓も出席するJapan ICT Dayというイベントでこのような批判的な発言が出ること自体、私は異例だと思いますし、それだからこそ深刻化しつつある問題だといえるのかもしれません。この思いを強くしたのは、Japan ICT Dayが終わった後でハノイに移動し、ハノイでも公的機関の方とベトナムのIT事情について意見交換をしていた時のことです。
その人はベトナム人ではありませんが、公的機関でベトナムのIT分野についての業務に携わっている方です。前述のJapan ICT Dayには出席していませんでしたが、次のような意見をきっぱりと言っていたのが強く印象に残っています。
- ベトナムのIT産業において、価格競争力で勝負できる時代はすでに終わった。これからは「ベトナムに仕事を出すメリット」をはっきりと示していかなければならない。
- ベトナムに進出してきた外資系IT企業からは、「大学でITの専門教育を受けてきたはずの人材を採用してみると、その能力と給与が見合わない」という声を多く聞く。ベトナムでも売り手市場ではあるものの、採用に時間がかかり、かつ、十分な能力を持った人が集まらないという側面もある。
- エンジニアだけではなく、他の人材についても同様。自分の所属する組織でも、つい先日、通訳を募集したが、妥当と思われる金額での募集にはほとんど応募がなかった。当組織の都合でどうしても通訳が必要であったために給与を高く設定して採用したが、やはり能力と給与は見合っていないように感じる。
ベトナムでは国策としてIT産業を強くしていきたいという思いがあります。同時に、FPT社をはじめとする在ベトナムの各企業は優秀な人材の確保に奔走しています。私は仕事柄、ベトナムのあちこちの大学を訪問しますが、外資系企業が採用したいと考えるレベルの大学で専門課程に在籍している学生数は、まだまだ産業界が求めるほど多くはありません。
一方で、訓練校まで含めると、エンジニアの数を確保することは可能でしょうが、やはり質の問題が発生するように感じます。これまで、ベトナムのIT産業は急成長をしてきましたが、計画的な人材育成が十分にできていなかったという構造的な問題が顕在化してきているのかもしれません。