NHTSAの使命が「人命を救うこと、事故を防ぐこと、車両が関わる衝突を減らすこと」という点からすると、ソフトウェアが自動車の安全性に関わる問題の原因になるという可能性が、少なくとも最近までは考慮されていなかったということかもしれない(そんなことが本当にあり得るのか)。
また、同局が2011年以降に示している安全に関する推奨項目のなかには、電子制御による安定制御機能("electronic stability control")、先行車両との衝突を回避するためのアラート機能("forward collision warning")、車線逸脱を知らせるアラート機能("lane-departure warning")」などが含まれ、最近ではこれに緊急時の自動ブレーキ機能(”automatic emergency braking”)」も追加されたともあるので、NHTSAでもソフトウェアの重要性に気付いてはいたがオートパイロット機能といったものまでは気が回らなかったということかもしれない。
いずれにせよ、NHTSAでは「バグの交じったベータ版ソフトウェアを自動車メーカーが配布する」といった事態を想定していなかった、あるいはそうしたことが視野に入っていたとしても、それに対して適切な対応を取る準備が間に合わなかった……。このThe Vergeの話からはそんな現状が伝わってくるようにも思える。
Jeffrey Millerという識者(南加大准教授、IEEEメンバー)はThe Vergeに対して、「NHTSAの対応はいつも後手に回っていて、何かを先取りした法律を作ったことはない(略)けれど、いまこそ技術の実現、実装に先回りする機会。ここでその機会を逸すると、今後も小規模なソフトウェアのリリースが(なし崩し的に)繰り返され、2019年か2020年あたりには完全にドライバーがいらない車両を目にすることになる」などとコメントしている。
NHTSA側にそれくらいの認識はあっても不思議はなさそうだが、実際にそうした先回りをできるだけのリソースがあるのかどうかなどはわからない。
コンピュータや携帯端末のソフトウェアやウェブサービスでは当たり前になった感のあるベータ版のリリース、あるいはOTA経由のアップデート配布といったやり方が新しい分野に持ち込まれる際に、たとえば「どんな機能なら勝手に追加できるのか」「勝手に追加できないものであるとすれば、誰が中味をチェックするのか」など、いろんな課題がいっぺんに明らかになった。
そうした点で、今回のTeslaの件はよくも悪くも画期的な出来事といえるかもしれない。