本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、米IBMのVirginia Rometty 会長・社長兼CEOと、NECの庄司信一 執行役員常務の発言を紹介する。
「コグニティブシステムは将来、人類にとって重要な意思決定を支援する」 (米IBM Virginia Rometty 会長・社長兼CEO)
米IBMのVirginia Rometty 会長・社長兼CEO
日本IBMが先ごろ、プライベートイベント「THINK Forum Japan 2015」を都内ホテルで開催した。Rometty氏の冒頭の発言は、同イベントの講演で、コグニティブシステムの将来について語ったものである。
コグニティブシステムとは、人間が話す自然言語を理解し、根拠をもとに仮説を立てて評価し、コンピュータ自身が自己学習を繰り返してナレッジを蓄えていくことができるテクノロジを活用したシステムのことである。IBMは今、その代表的なサービスである「Watson」の普及拡大に注力している。
Rometty氏は「デジタルビジネスにデジタルインテリジェンスを加えると、コグニティブビジネスになる。つまり、デジタルビジネスの先にコグニティブビジネスがある。Watsonはコグニティブビジネスを支えるプラットフォームになる」と強調した。
同氏によると、コグニティブビジネスには次の5つの特長があるという。まず1つ目は、人との関わりをより深くすることができる点だ。「例えば大手保険会社では、Watsonを活用することで顧客に一段ときめ細かいサービスを施せるようになり、保険の成約率が10%向上した実績がある」と説明した。
2つ目は、ナレッジを拡張できる点だ。「例えばナレッジを社内で共有することにより、社員教育を効率化して全体のスキルを底上げできる」という。3つ目は、学習機能を持たせた製品やサービスを提供できる点だ。「例えば自動車や医療機器、家電製品などに学習機能を持たせれば、一層品質の高いものを提供できる」という。
4つ目は、業務プロセスにも学習機能を持たせることができる点だ。「例えば大手小売業者では、サプライチェーンの効率化に向けてWatsonを活用し、売り上げを10%、粗利率を5%向上させた実績がある」と説明した。そして5つ目は、新たな発見が可能になる点だ。「例えば大手製薬会社では、Watsonを活用することで創薬に向けた作業が大幅に効率化した実績がある」と語った。
その上で同氏は、「コグニティブシステムは学習するにつれてナレッジがどんどん洗練され、それが企業にとっての競争力そのものになっていく。デジタルビジネスの拡大に伴って、今後コグニティブは必須になってくる。コグニティブなくして大量の情報をナレッジに変えていくことは不可能になるだろう」と強調した。さらに「大胆な予測だが……」と前置きして語ったのが冒頭の発言である。