住宅設備大手のLIXILは、東京大学教授の坂村健氏との共同研究で住居に“モノのインターネット(Internet of Things:IoT)”を活用する「LIXIL IoT Houseプロジェクト」を始める。プロジェクトは第1期(2015~2016年)に社員モニター20棟での予備実験と検証実験、第2期(2016~2017年)に実証環境の構築、第3期(2017年~)に実際に実証実験で有効性を検証するという3期に分けて進められる。
新プロジェクトを起ち上げた背景について代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)の藤森義明氏は、「当社は建材、住設商品に取り組んできた。世界がデジタル化によって大きく変わる中、社内の文化革命を起こさなければならない。それを踏まえて重要な実験プロジェクトだと捉えている」と社内変革に向けた新しい取り組みだと説明した。
LIXIL 代表取締役社長兼CEO 藤森義明氏
LIXIL 取締役 専務執行役員 R&D本部長 二瓶亮氏
東京大学大学院 情報学環 ユビキタス情報社会基盤研究センター長 坂村健氏
今回、共同で実験に取り組む東京大学大学院 情報学環 ユビキタス情報社会基盤研究センター長の坂村氏は、「IoTハウスは、IoTという言葉がなかった30年前から取り組んでいる。これまでのIoTハウスは部材が特注だったために高価だった。今回は建材を提供するLIXILとのプロジェクトであり、大量生産で低コストなIoTハウスを実現できる。これまでの研究知見を全て取り入れ、世界最高の住宅を作りたい」とプロジェクトの意義を強調した。
IoT Houseでの売り上げ目標などは明らかになっていないが、プロジェクトにかかるコストは「10億円程度となるのではないか」(藤森氏)という。
課題は山積み
LIXILでは2009年から自社商品に生活研究ノウハウ、センサ、ネットワーク技術などを取り込んだ検証実験住宅「U2-HOME(ユースクウェアホーム)」を展開している。今回のプロジェクトは、さらに新しい技術を取り込み、「LIXILだからできる、住生活の未来を追究する試み」(取締役 専務執行役員 R&D本部長 二瓶亮氏)と位置付けている。
「例えば排泄物には、個人の健康情報がたくさんつまっている。トイレにセンサを導入し、情報を入手して住まう人の健康に関する情報獲得のために住宅設備を活用できる。また、家庭内で起こる事故の件数は、交通事故の死者数を上回る件数となっている。IoTで獲得した情報で人の動きを見守る。また、住宅そのものの健康状態を把握する、センサから得た情報を外部のコミュニティーにつなげるなど、住宅設備や建材の総合メーカーである当社だからこそできるIoTがある」(二瓶氏)
ただし、住設備とIoTの関係について「家は30年40年使い続けていくもの。IoTは日々技術進化していくものであり、寿命が全く異なる。住宅にIoTを取り入れる場合、住宅の寿命と同じ期間使い続けていけるものである必要がある。また、停電時に機能しなくなるのではなく、住んでいる人をサポートする機能を持つことができないかなど、研究すべき課題は多数ある」(二瓶氏)ことも事実だ。
LIXILでは、いつまでも使い続けられる、プライバシーが守られること、非常時でも困らないこと、簡単に設置して簡単に使えることなどについて、検証しながら課題を克服する方法を模索していく。
2015年からスタートする第1期は、構想と予備実験の段階と位置付ける。モニターを社内から募集し、20棟程度の実験棟を建設。センサ位置の最適化、データ取得と分析、機能やサービスを検討する。
第2期は実証環境構築期と位置付け、理想モデルに基づくコンセプトハウスと実証環境を構築する。センシング技術の開発、IoT建材の開発と検証、住環境制御の研究などを進めていく。
第3期は機能拡充と検証期。IoTハウスの機能やサービスを拡充するとともに、実証実験で有効性を検証する。坂村氏のデザイン、監修によるコンセプトハウスを2017年に竣工させる。IoTハウスの理想モデルの具現化、LIXILのコンセプト発信なども進めていく。
坂村氏は、「1989年には竹中工務店グループの中にTRON電脳住宅バージョン1を、2004年には豊田中央研究所内にバージョン2を建設した。今回は3度目となるが、ネットワークケーブルが必要なくなり、各建材が直接ネットワークにつながる。排泄物の情報を活用するといったことができるのは、住設備を提供しているLIXILだからこそできること。基本的な技術については、全てオープンアーキテクチャとして開放できる情報については積極的に開放していきたい」と話す。
今回のプロジェクトに対し藤森氏は、「毎年、ダボス会議に出かけて世界の経営者の話を聞いているが、われわれのライバルはTOTOではなく、今後はGoogleがライバルになってくる可能性があることを実感している。そこに向けて社内文化をどう変えていくことができるのかは大きな課題」と話し、今回のプロジェクトを大々的にアピールする狙いの一つは社内に対する呼び掛けだと説明した。
実証実験の内容