ノークリサーチは12月9日、2015年の国内中堅・中小市場におけるクラウドサービス評価に関する調査・分析の結果を発表した。調査は日本全国/全業種の500億円未満の中堅・中小企業において企業経営もしくはITの導入/選定/運用作業に関わる職責の人物を対象として10月に実施し、700社から有効回答を得た。最も成功したクラウド活用分野は「情報共有」となった。
最も成功したクラウド利用に該当する業務システム分野を尋ねたところ、例えば年商5億円以上~50億円未満の中小企業層においては、最も多く挙げられたのが「情報共有」(メール、グループウェア、オンラインストレージサービスなど)で35.0%、その他の分野については1割以下にとどまっている。
本調査では、10分野の業務システムについて、11項目に渡るユーザー企業の評価を集計・分析しており、その一例として年商5億円未満~100億円の3つの年商区分における「運用費用削減」に関する評価結果をプロットしたのが下のグラフ。それぞれの年商区分で、異なった傾向が見てとれる。

(ノークリサーチ提供)
年商5億円未満の企業層では「期待:有」の割合が7割に達するものの、「期待:有、成果:×」が27.3%を占め、「期待:有、成果:○」の割合は42.4%にとどまっている。クラウドを選択することで運用費用を削減したいと考える企業は7割に達するが、実際に実現できている割合は半数強(7割のうちの4割)にとどまっているということになる。
一方、年商5億円以上~50億円未満の企業層では「期待:有」の割合が5割未満にとどまっており、必ずしも大多数の企業がクラウド利用に対して運用費用の削減効果を期待しているわけではないことが確認できる。
同年商帯は年商5億円未満と比べて業務システムの導入率や活用率が高く、クラウド移行に相応の労力や費用を要する一方で、年商50億円以上の企業層ほどシステム規模は大きくないため、クラウド事業者に預けることで得られるメリットが得にくい場合もあるものと考えられる。
そして、より大きな中堅企業層では「期待:有、成果:○」の割合が年商50億円未満と比べて高い。ただし、年商50億円以上の企業を区分していくと、企業規模が大きくなるにつれて「期待:有、成果:○」の割合は低くなり、「期待:有、成果:×」の割合が高くなる。
企業規模が大きくなるにつれて業務システムも複雑度になり、クラウド移行による運用費用削減を実現するための難易度が高くなることが要因と考えられる。
調査では、さらに「最も成功したクラウド利用」に該当する具体的なサービス名称も、自由回答形式で尋ねている。実際の回答件数は限られるものの、以下のような名称が挙げられた。
情報共有
「Google Apps」「cybozu.com」「Office 365」などが挙げられる。「情報共有」の代表例であるメールやグループウェアは多くの社員が利用するアプリケーションでもあるため、「社員が使い慣れたアプリケーションを変えたくない」という慣れに起因する変更障壁が存在するが、逆にオンプレミス形態と同じものを利用し続けられればクラウド移行は円滑に進む。
実際、cybozu.comは「サイボウズOffice」、Office365は「Outlook」といったように、これら2つのサービスはオンプレミス形態で多く導入されているアプリケーションの使い勝手を継承できている。
一方、Google Appsについては販社/SIerが提供するアドオンの充実が大きな特徴の1つとなっている。各種アドオンの適用によってユーザ企業に適した機能や使い勝手を実現できるという点も、クラウド活用を成功させる要素として有効であると考えられる。
顧客管理
「Sales Cloud/Service Cloud」(Salesforce.com)や「CRMate」(富士通)などが挙げられる。中堅・中小企業における顧客管理システム活用は社内を意識したものが依然として少なくない。営業日報の管理などを通じて営業社員の活動を効率化するSFA(Sales Force Automation)はその代表例だ。
一方、大企業では「ECサイトである商品を閲覧したが購入まで至らなかった顧客に対して、翌日に該当の商品の魅力を伝える販促メールを送る」といったように顧客の嗜好や行動を踏まえた個別対応業務を自動化するMA(Marketing Automation)の活用が進みつつある。
人員が限られる中堅・中小企業においては、社内を意識したSFAだけでなく、こうした社外を意識したMAへの取り組みも重要と考えられる。販促メール送信などのシンプルなサービスは既に存在しているが、比較的手軽に導入可能なクラウド形態のMAが登場すると、中堅・中小企業の顧客管理におけるクラウド利用もさらに進むのではないかと予想される。