医療業界の顧客の1つであるアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)は、同学会の医療ITシステムである「CancerLinQ」をHANAおよびHANA Cloud Platform上で動かしている。
ASCOのCancerLinQ事業および戦略委員長であるGreg Parekh氏は、この医療プラットフォームは、数百万人規模の患者とその遺伝子データポイントおよび診療記録のリアルタイム分析に基づいて、がんに対する理解を深めるための「高速がん学習システム」であると説明する。このプラットフォームを利用することで、医者は適切な最新の情報を、診療所で患者に提供することができるとParekh氏は言う。同学会とSAPとの協力関係が発表されたのは2015年1月であり、一部の医者よるCancerLinQのベータテストが始まったのは、その9カ月後だった。
Parekh氏は、このプラットフォームによって、ASCOに所属する4万人のがん専門医ががんに関する貴重な知見を得ることができる可能性があるとし、ゆくゆくは所属医師の8割がCancerLinQを利用するようになることが目標だと付け加えた。
ところが、データの取り込みと、データセットを相互運用可能な状態にすることが、非常に難しい問題であることが分かったという。これは、電子診療記録の実装がさまざまで、プラットフォームによって異なる形でカスタマイズされているためだ。貴重な知見が得られる可能性のある、医師の個人的なメモなどの非構造化データをこのシステムにフィードすることも、やはり簡単なことではなく、これは広く業界で解決されていなかった課題だとParekh氏は述べている。
「この問題は事前に予想することもできたかもしれないが、データの取り込みがこれほど難しいとは考えていなかった。もう少し簡単だと思っていた」と同氏は話した。「良かった点は、少ないデータセットからでもすぐに知見を得ることができたということだ」(Parekh氏)
がんに関する興味深い知見が得られるまでには、100万人分の患者の診療記録が必要になると予想されていた。「それよりも少ないデータで得られた知見には驚かされた」と同氏は付け加えた。
HANAのメリットを伝えることが必要
高度なアナリティクスの必要性は、アジア太平洋地域でHANAの導入が進んでいる主な原動力となっている。この地域の顧客は、多くの場合、「SAP Business Warehouse」のアプリケーションを従来のデータベース管理システムからHANAに移行することで、より高速なデータの取り込みとアナリティクス処理を可能にしている。
Gartnerのフェロー兼バイスプレジデントのMassimi Pezzini氏は、米ZDNetに対し、GartnerはHANAのアジア太平洋地域の顧客数に関する数字は持っていないとしながらも、このプラットフォームの導入は地域全体で「早いペースで」進んでおり、特に韓国、日本、インド、および一部の東南アジア市場で普及していると述べた。
同氏によれば、日本やオーストラリアのような国では、S/4の普及もHANA導入の要因になっているが、S/4は比較的新しい製品であるため、この傾向が出てきたのはごく最近だという。
この地域でHANAを導入した企業の数はまだ比較的少ないが、2015年第3四半期からS/4に対する関心が高まってきているとPezzini氏は言う。
同氏は、2016年に向けてSAPがアジア太平洋地域での成長戦略に取り組むべきことは何かと問われて、企業は依然としてS/4 HANAのインパクトについてよく理解しておらず、ビジネス上の価値やロードマップも知られていないと述べた。