北川裕康「データアナリティクスの勘所」

「企業文化」がデータ分析に果たす役割とは

北川裕康 2015年12月16日 08時00分

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 先日、とある国内大手企業の人事の人に、「北川さんはやはり、最初の企業である富士通の影響がありますね」と言われました。

 私が入社した1987年当時の富士通は、第8代社長の小林大祐さんの「ともかくやってみろ」というチャレンジ精神が深く根付いていました。やってみないと何も道は開けませんからね。そして、配属されたシステム本部では、「まずはマニュアルを読め=自分で最初は勉強しろ」と、常に言われていました。3年という短い期間しか富士通にはおりませんでしたが、このチャレンジ精神や自己学習の教えがいまだに大好きです。

 加えて、その当時叩き込まれた「顧客との打ち合わせには10分前に行くこと」が、いまだに私自身の行動規範のベースになっていると思います(通常の社内ミーティングでも一番に座ることが多いです)。これら「ともかくやってみる」「まずはマニュアルを読め」は、当時の富士通の“企業文化”だと考えます。

 前置きが長くなりましたが、今回は、「企業文化がデータ分析に果たす役割」について述べたいと思います。

企業文化とは何か


 企業文化とは、社員すべてで共有する経営の羅針盤で、その企業の社員が下す行動や判断の基準になる暗黙の価値観だといえます。企業は人で成り立ち、その人は企業文化の中で仕事をします。

 これはシスコシステムズで働いていたときに当時の本社CMOから教わったことですが、「企業の中のタレントは、企業文化と、企業文化の上で成り立つプロセスおよび組織において力を発揮する。そして、そのタレントのスキルは(そのプロセスや組織にとって)適切である必要がある」。つまり、(1)コラボレーションを促進したり、イノベーションを追及したりする企業文化が先にあり、(2)その企業文化の上にエクセレントなオペレーションと柔軟な組織を作り、(3)その中で人のポテンシャルを最大化する--ということでしょうか。能力の高いタレントを生かすも殺すも、企業文化次第なのです。それほど企業文化は大切です。

 また、企業文化は時間とともに、企業の成長や取り巻く環境の変化に伴って変わっていきます。言い換えると、企業文化は変えることができるのです。

Fact based decisionの企業文化がもたらす価値

 ここから本題です。企業文化は、データをビジネスに活用する上で重要な役割を果たします。

 以前、日産自動車の人にセミナーで講演していただいた際、とても印象深い話をうかがいました。あるとき、同社であるデータを分析して導き出した数字をもとにある経営判断をしようという提案が上がりました。そのとき、多くの経営メンバーがその数字を懐疑的に見たそうです。そこでカルゴス・ゴーンさんが言った言葉が、「これが日産自動車の中でのBest Guessである」です。分析の結果が最も有力な推測だと。すごいことをおっしゃいます。

 経験やカンで判断する前に分析のスペシャリストが導き出した結果をまずは意思決定の基準にする、英語で言うとFact based decisionという言葉に集約されますが、これが企業文化として根付くことがデータ分析において重要です。

アナリティクスで競争優位性を獲得するために自問すべき5項目


 データ分析において企業文化がどれほど重要なのか、Factを見てみましょう。

 SASとMIT Sloan Management Reviewが、世界中の経営幹部を対象に毎年実施しているアナリティクスに関する共同調査があります。今年は「データサイエンティスト」人材を中心に調査しており、企業文化とデータ分析については昨年の調査が参考になります。

 アナリティクスやデータ分析が深く企業に浸透して競争力に貢献しているかどうかを考える場合、どのような調査をみても、3つのポイントがあります。それは、(1)分析のスキルをもった人材がいるかどうか、(2)アウトプットの品質が担保できるデータ管理をきちんとやっているか、(3)数字をベースに意思決定でき、かつ、コラボレーションする企業文化があるかどうか--です。

 2014年のこの調査では、調査対象の経営幹部に対して「上記の3つのポイントのどれが、アナリティクスを活用して企業の優勢性を出す上で大事ですか」と質問しました。結論としては、「すべて大事」です。データはもはや次々に自動生成され、それを生かす人材がセクシーな資産になってきています。そして、高い品質のデータから高い分析結果が得られる自明の事実があります。ですから、(1)と(2)は納得感がありますね。

 (3)について、レポートでは「事実に基づく意思決定においてトップダウンの指揮命令系統がある企業では、そうでない企業に比べて、アナリティクスの恩恵を極めて広範囲にわたって実感していることも示されました」と考察しています。つまり、競争力を最後のひと伸ばしするところでは、企業文化がもっとも大事で、(1)と(2)の基盤になるのです。


 また、コラボレーションもデータ分析では大事な企業文化の要因です。特定のデータサイエンティスだけに頼るのではなく、IT部門、アナリスト、事業部門、そして、データサイエンティスがそれぞれの役割をもちコラボレーションしてこそ、データ駆動ビジネスの企業文化ができるからです。

 そしてこの調査では、企業がアナリティクスを活用して競争力を強化するために、自社の企業文化について次の5つの重要な項目に自問自答することを提言しています。

  • これまでの慣行を覆すような新しいアイデアを組織は受け入れるか?
  • 組織はデータを中核資産と考えているか?
  • 経営幹部はこれまで以上にデータ駆動で分析的なアプローチを取るように組織を引っ張っているか?
  • 組織は戦略の策定に分析的な洞察を活用しているか?
  • ビジネスのやり方を変えるアナリティクスを喜んで受け入れられるか?

 フルレポートは、英語ですが、こちらから入手できます。

 アナリティクスに関わらず、競争優位を発揮する企業は上記のようなことを自問自答しながら、独自の価値体系や行動規範を企業文化として作り上げているのではないでしょうか。また、「企業文化を作るのは経営陣の仕事でしょう」と思われるかもしれませんが、部門の長であっても、その人が作る暗黙または明文化された行動規範や価値観が、部門の競争優位につながるのだと思います。

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