第1回「アンティキティラ島沖に眠る2000年前の船」、第2回「北極海に眠る19世紀の探検船」に引き続き、今回は「バルト海に眠る16世紀の軍艦」の謎に迫る。
1564年に沈没したスウェーデンの軍艦マルス号は100門以上の大砲を備え、700人の乗組員が乗船するという、当時の規模にして世界最大の戦艦だった。
このスウェーデンの大型戦艦は、デンマークとドイツの帝国自由都市リューベックの連合軍と戦い、壮絶な海戦の結果、最期を迎えることになった。戦闘中にマルス号上で火災が発生し、船が明らかに危険な状態に陥っていたにもかかわらず、敵兵は沈没直前まで船を目がけて乗り込んできていた。しかしその後、弾薬庫に格納されていた火薬に炎が燃え移り、大爆発によって右舷に大きな損傷を受けた結果、マルス号は船上のスウェーデン水兵と、乗り込んできた敵兵もろとも海の底に沈んだのだった。
デンマークとドイツの兵士たちは既に火の手が上がっている船に乗り込むことの危険性を知っていたはずだが、それでも乗船するという危険を冒した。なぜだろうか?命が危険にさらされても、そして実際に命を失う結果になっても、船に搭載されているとうわさされていた大量の金貨と銀貨の回収を優先したという説もある。
この船の残骸と、うわさされていた財宝は、その後400年以上にわたってバルト海の底75mの地点に眠っていた。マルス号がエーランドの戦いで沈んだその日から、船の発見に向けた捜索活動が数多く試みられてきた。そしてついにそういった捜索活動に終止符が打たれる日がやってきた。Ocean Discoveryというダイバーのグループが20年に及ぶ捜索の末、マルス号を発見したのだ。
科学者らはコンピュータを活用し、マルス号の残骸の3Dモデルを作成した。
提供:Ocean Discovery
シュデターシュ大学に設置されているバルト海海洋考古学研究所(MARIS)の所長Johan Rönnby氏は「マルス号はスウェーデンにおける伝説の船であり、ほとんどすべての人が発見したいと夢見ていた。この軍艦は、スウェーデンにおけるテューダー朝とも言えるヴァーサ王朝の始祖、グスタフ1世(グスタフ・ヴァーサ)の息子エリク14世によって建造された、スウェーデンの建国と関わりを持った船だ。スウェーデンが国家となった後、この国を欧州の超大国にしようとする試みがあり、マルス号はまさにその野望を実現する一翼を担っていたのだ。エリク14世は1560年代において、おそらくは世界最大の船を建造した。その点でマルス号は船として別格だと言える。全長は60m以上あり、装備も非常に近代的なものだった」と述べた。