がれき周辺に散らばっていたいくつかの人骨も、回収せずに分析が進められた。3Dモザイクは博士課程の学生によって調査され、その人骨の身長や、特定の病気にかかっていたかどうかといった外面的な特徴だけでなく、骨に残されたひびや焼け焦げた跡から、その死因までもが導き出されている。
2枚の銀貨といくつかの大砲は、ROVの力を借りて海上に引き上げられたものの、遺物はできる限りそのままの状態にされ、調査によって沈没現場が破壊されないようにする計画だ。またこのテクノロジは、画像と同様に遺物やその他の物体の正確な位置データを集積していくため、現場にグリッドを敷設して調査する必要もない。
とはいえ、将来的にマルス号の姿を陸上で間近に見ることができないわけではない。沈没現場を詳細にマップ化する技術のおかげで、3Dプリントという新たな方法でこの遺物を陸上に再現できるのだ。
「コンピュータ上で沈没現場に向かってダイブし、遺物をズームして詳細を見たり、それらの向きを変えたりできる。さらに素晴らしいことに、実物の再現すら可能だ。3Dプリンタを使えば構造物の一部や遺物をプリントできるのだ」(Rönnby氏)
現在のところ、縮小プリントで船体の一部と大砲が1つ再現されている。おそらく将来的には、世界中の博物館がこの技術を活用できるようになるだろう。沈没現場にあった遺物のコピーを複数作成し、多くの博物館で展示し、来訪者に触ってもらったり、学術的な研究に供することできるうえ、保存のための環境に気を配る必要もなくなる。また、コンピュータ内に3Dデータを保存しておけば、来場者が自らの視点を操作し、調査を体験できるようになる。つまり、彼らは歴史の核心に触れられるというわけだ。
数年以内には、海洋考古学を志す人々に対して、自らの足を濡らさずともマルス号を調査できる新たな方法が提供されるはずだ。最終的には、個人が「Oculus Rift」のようなヘッドセットを使って仮想現実(VR)内で沈没現場を調査できるようになるかもしれない。
Rönnby氏の言葉を借りると、マルス号によって「戦争のまっただ中に近づける可能性」がもたらされるという。
同氏は「船体を構成していた多くの木材がいまだに黒ずんでいる点から、爆発にさらされたことが見て取れる」と述べ、「大砲はまだ砲座に固定されており、船体には砲弾が貫通した跡が残っている。本当に戦場へと近づけるのだ。詰まるところ、わたしは考古学の目的が、人間に関する総合的な研究であると考えている。今回の調査の場合、われわれが戦う理由や戦闘方法、戦闘時における人の振る舞い方といったものが研究対象となる。わたしはマルス号を、戦争と、戦時における人に焦点を当てた普遍的な人間性という議論の一環として扱いたいと考えている」と締めくくった。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。