Fintechの正体

「Fintechイヤー」だった2015年(前編) - (page 2)

瀧 俊雄

2015-12-27 07:30

官公庁におけるFintech議論の高まり

 2月5日の金融審議会の決済業務等の高度化に関するスタディグループ(その後、ワーキンググループに改組)が開催された日以降、Fintechは幅広く取り上げられるテーマとなっていった。

 金融審議会におけるFintechの取り上げは、この時が初めてであった訳ではない。2014年秋に開始された上記スタディグループは、決済などのサービスを取り巻く技術進化の、従来の制度・規制が想定してこなかった付加価値を探る問題意識の下に発足したものであった。

 ただし、2月5日の会合が特筆されるのは、銀行業によるFintech事業への参入方法がテーマとして具体的に浮上したためといえる。銀行は預金や決済といった、他の業態とは別次元の信頼性と公共性が伴う業種であるため、その業務範囲には厳密な制約がある。

 一方で、ITビジネスでは、商流や売り上げにつながるデジタル情報が発生し、これらの情報にいち早くアクセスできることが、例えば決済や融資といった文脈においては、金融業の大きな差別化につながる点ともいえる。

 日本では流通系・EC系企業が銀行を保有する中、一部の企業がこれらの商流情報を融資に直結させ、スピードローンを出す事例なども出てきている中で、逆方向の展開として、銀行側からも同様の取り組みを行う自由度を持つことができないかが、上記の会合では取り上げられた。この議論は、5月以降は「金融グループを巡る制度のあり方」に関するワーキンググループにおいて更に展開され、年末には法改正の方向での調整が進められるまでに至った。

 9月に発表された金融庁の金融行政方針においてはさらに、Fintechの調査・整備が重要施策として取り上げられるに至った。金融審議会ではその後も、ブロックチェーンに関する利用者保護の枠組みや、携帯電話番号を用いた送金、デビットカードでのキャッシュアウトといったテーマが展開され、年末には、二つの展開されていたワーキング・グループの取りまとめが展開され、スピード感ある形で規制及び法改正が進んでいる。

 また、上記とは別途、経済産業省においても、新産業としてのFintechのインパクトを検討する研究会が開催されている。産業構造審議会での政策上の課題を明らかにするべく、筆者も参加した同省のFinTech研究会では、金融情報の利用、企業向けFintech、資産運用、ITシステム業といったテーマで矢継ぎ早に合計7回の議論が展開され、ベンチャーのみならず、さまざまなプレーヤーの競争力がどのようになるのかが討議されている。

 これらの動きは、海外のさまざまな当局や制度における過去数年の動きに対して、一気にキャッチアップを図ろうとする動きともいえる。金融制度の国際的な協調や、国際競争力の観点からも、これらの進捗は非常に重要なものであったといえる。

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