紙と電子新聞の〝両輪〟で進む
(東海新報社記者/鈴木英里)
小紙の電子新聞が2015年6月2日に「配布」を開始してから、半年が経ちました。購読数は現在70ほど。当面の目標は「およそ350人の郵送購読を電子化に切り替えてもらう」というものなので、「3日間無料お試し購読」のほか、今後は電子新聞と紙の新聞の「併読割引き」、スマホやタブレットで電子紙面を見てもらうイベント…といった販売戦略が必要だと思います。いずれ、利益率は35%ほどとまずまずのスタートを切ったところです。
電子版の購読者が大幅に増えれば、印刷代や紙代、配達手数料などを削減できるという大きなメリットもありますが、弊社は将来、全面的に電子新聞に切り替えたいと考えているわけではありません。むしろ、これまで通り紙媒体を一番大事にしています。
とりわけ高齢の人はまだデジタルへの抵抗感が強いですし、紙媒体の持つ「一覧性」(自由にパラパラめくって全体像をざっと把握できる・自分のスピードで記事を探せる)、これはデジタルの利便性をはるかにしのぐ優れた一面です。
東日本大震災が発生した際、弊社は自家発電機を回して当日から号外を刷ることができました。一方でインターネット環境が整うまではウェブサイトを更新できず、遠方の方に地元の情報を発信できないもどかしさがありました。現在では停電によってシステムがダウンしてもネット環境を保てるよう対策を取っていますが、それでも「絶対大丈夫」とは言えません。そんな時も紙なら刷ってお届けすることができます。
新聞紙の元になるロールペーパー
ペーパーは我々にとって「最後の砦」。そして電子新聞と紙、どちらも欠くことのできない〝両輪〟です。そのため、電子新聞がその「片側の車輪」としてしっかり機能するよう、成長させていきたいと思います。
クラウドによる可能性については、コンサルティングを担当する熊谷さん、開発に携わってくださった葛西さんからも示唆された通りです。紙新聞に対する電子新聞のアドバンテージで大きな部分は、「記事1本に付けられる写真の枚数が多い」「動画も公開できる」という点。紙面では通常、記事1本に対して掲載できる写真は1枚、多くても2枚です。一方、電子新聞では1つの記事に対しメインの写真以外の「アザーカット」を2~6枚ほど加えるようにしています。
また、イベントの様子などを記者がスマートフォンで撮影し(15秒~1分程度)、現場がどんな雰囲気だったかも動画で伝えられるようになりました。これによって、読者の得られる「情報量」は格段に増えたと言えます。
特に、児童生徒が写っているような写真が掲載された場合、ご家族から「新聞には載っていないが、うちの子が写ってる写真はないか」と問い合わせをいただくことがよくあります。こうした読者の要望に逐一おこたえできるのも「地域紙の強み」ですから、電子化によって享受できる利点はどしどし活用していきたいです。
地域の〝アーカイブ〟に。オンリーワンメディアとして生き残りかける
東日本大震災により、再び「被災地の新聞社」となったことで改めて痛感するのは、「我々は『地域のアーカイブ』であらねばならない」という点です。
震災後、以前の町の写真や風物、伝統文化などについて……。「何か残っていないべか?」と尋ねられることがしばしばあります。流されてしまったものを取り戻すことはできません。しかし「情報」さえ残っていれば、そこから再構築することは可能なのです。地域新聞社には、その地域に根ざすあらゆる事象を〝保管〟しておく義務があると思います。
一例として、小紙電子新聞のアーカイブ覧に特設動画コーナーを開設。伝統の祭りや盆踊りなどを撮影・公開しています。こうした動画がたまっていけば、「気仙地方を知る映像集」としての役割を果たしてくれるでしょうし、万が一その伝統が廃れてしまっても、それらが〝再生〟のよすがとなるはずです。
葛西さんが指摘してくださった通り、当地の情報が1カ所に蓄積されること=「知の宝庫」が生まれることになるわけです。「気仙地方について知りたいなら、まずは東海新報を見ればいい」。そう言われる存在になりたいものです。
印刷所のトイレに張られた「新聞第一」の文字。新聞作りへのこだわりは東海新報の核だ
電子化採用後の課題はもちろんあります。それは、どうしても記者の負担が増えてしまうこと。テラソリューションが開発してくれたシステムのおかげで、記事のアップロード自体は必要最小限の動作でできます。しかし、その作業は編集部員が分担で行っており、取材時の動画撮影も、その後の写真選別も担当記者本人の仕事になります。利益は出ているものの、比例して残業代も増えているのが現状です。
何か新しいコンテンツを企画しても、取り組むのはおのずと編集部中心になりますし、現段階ではまだ記者たちに余力がありません。システムも運用を社内でどう分担し、紙面をより充実させるための余力はどこから引き出すか、それは今後検討すべき大きな問題であります。
しかし私がいつも念頭に置いているのは、現編集長である長谷川一芳がよく使う「これは東海新報にしかできないことなんだ」という言葉です。
大手であれば、カバーしなければならない範囲が広すぎてミクロな紙面は作れません。でも限られたエリアで発行する地域紙は、微に入り細にわたる情報発信が可能です。「うちにしかできないことがある」──それがローカルメディアの存在意義です。
だからこそ、我々は地域にとって「オンリーワン・メディア」に、そして新聞の世界におけるナンバーワンにもなれると思っていますし、また、そこを目指すつもりです。
「唯一無二」と呼ばれる企業になるための条件に、資本力の大小は含まれていないということ、〝超ど田舎の零細新聞社〟がグローバルに羽ばたけるということを、小紙の電子化がいずれ示してくれるだろうと信じています。