事業会社のベンチャー投資とは何か? これは、筆者が自分で担当していても、常に自ら問い、他人から問われるテーマである。そして他社の担当者に問うても、その答えはさまざまだ。「事業シナジーを狙う」「あえて事業シナジーは狙わない」「リターンは関係ない」「リターンだけ求める」などなど。
そして、しばしば、その考え方は時間とともに変わっていくのだと言う。例えば、事業シナジーを求めるところからスタートしたが、結局はシナジーを意識しない方がうまく行くことが分かったとか。ベンチャーに投資する事業会社も、それぞれに置かれた状況は異なり、故に動機もさまざまだ。
しかし、ベンチャー企業がある特定の事業会社を資金の出し手として選択するならば、事業会社に期待するのはその事業基盤を生かした支援だろう。とすれば、事業会社側が望むと望まざるにかかわらず、潜在的には事業シナジーを生み出せるベンチャー企業へ投資することが多くなるだろう。だとすると、なぜ事業シナジーを生むためにベンチャーへ投資をしないといけないのだろう?
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筆者の場合、これはイノベーションの取り込みだ。大手企業が失ったマインドセットを外部へ求める訳だ。ベンチャー企業は数人でもグローバルなサービス展開に着手できるが、大手企業の内部で同じ人数がアサインされても同じことが起きることはない。この欠落したイノベーション力を補うのがベンチャー投資である。出資を通じて、長期的に事業シナジーを生み出し、自社の事業のイノベーションにつなげる訳だ。が、この考えは実は建前に過ぎない。
本音を言えば、破壊への欲求である。つまり、ベンチャーへの投資は、自らの事業領域を拡大するというような奇麗事としてではなく、自らを破壊する覚悟で行うものだ。ベンチャー企業に出資するということは、自らの事業モデルを破壊するかもしれないものを支援するということに他ならない。さらに言ってしまえば、自社だけではなく、自社が属する事業領域そのものを破壊するかもしれない動きを支援することである。
破壊とは、前向きに捉えれば自己革新である。つまり、自分でできない自己革新を外部の力でやろうとしているということになる。ベンチャー投資の醍醐味は、破壊と革新の緊張関係を常に意識しながら、事業の発展につなげていくところにある。筆者の考えも経験を積めば変わるかもしれないが、これは今感じていることである。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。