何が2つなのか
ERPやサプライチェーン管理システム(SCM)のようなSoRは、顧客が製品やサービスを“買ってから”を処理、格納するものだ。SoRの場合、パブリッククラウド上で稼働させるのか、外部のサービスプロバイダーに委託するのか、さまざまな形態があり得るが、ERPやSCMなどが企業の業務からなくなってしまうことはあり得ないだろう。どんな形態であってもERPやSCMなどが活用されることは、経済のデジタル化が進んでも変わらない。
ERPやSCMなどは企業ITの領域で基幹系システムと呼ばれ、求められるのは信頼性や安定性、可用性だ。信頼性が重要とされるSoRの場合、必要な開発手段はウォーターフォールだ。業務を安定的に回せることがSoRの目的であるため、最初に要件定義があり、決められた要件に対応できるようにシステムの構築は進んでいく。システムの本格運用後は、IT部門の運用チームが管理し安定運用を担う。システムに手を入れるのは基本的に法律や規制などに変更があった場合に限られる。
こうした業務とシステムの関係、IT部門の関わり方は従来通りだ。これがバイモーダルでいうところの“モード1”だ。
Gartner フェロー兼リサーチ部門バイスプレジデント Dave Aron氏
では、Gartnerが提唱するバイモーダルでいうところの“モード2”は何を示すのか? モード2は、CRMに代表されるSoEというシステムの活用形態をより大きく捉えたものと言える。モード2で重要なのは、とにかくスピードだ。製品やサービスを購入する顧客の声や実情などの外部環境の変化に対応することが求められる。
そのため、モード2で重要なのは、要件が固まってから開発するウォーターフォールではなく、スピード重視のアジャイルであり、開発チームと運用チームが連携して進める“DevOps”である。モード2の目標は、スピードつまり俊敏性だ。
モード2では、“いかに買ってもらうか”を狙うSoEと同じ方向を目指しており、売上拡大や顧客とのより深い関係性、顧客体験向上を追う。スピードを優先させるために、モード2のサイクルは日次や週次であり、モード1での月次や年次といったサイクルよりもはるかに短い。
たとえば、消費者向けに提供するモバイルアプリのように、DevOpsの枠組みを活用して、開発した後に消費者からのフィードバックをもとに新しい機能を追加したりレスポンスを速めたりして、新版を提供するといったサイクルを速く回すことが重要だ。そうしたことから、モード2では、システムの安定性や信頼性は二の次になることが多い(モード2の考え方を拡大してみると、IT部門が管轄せずにユーザー部門が勝手にパブリッククラウドのSaaS型CRMを活用するという実態も、ひょっとしたらモード2と言えるのかもしれない)。
延長線上にはないモード2
SoRとSoEという対立関係に重ねて、バイモーダルでのモード1とモード2の違いを見てきた。ここで強調できるのが、モード1とモード2の違いはSoRとSoEというシステムの性格の違いだけに起因するものではないということだ。
改めて言うまでもなく、ビジネスとITの関係は車の両輪と言える。違う言い方にすれば、これまでのビジネスとITは直線上の両端同士という位置関係だ。これはモード1の論理だ。社会に広く普及しているITを前提にする、デジタル化しつつある経済の現在では、モード2が求めるのは、直線上の両端という関係ではなく、ビジネスとITの完全な一体化と言えるのかもしれない。「テクノロジが決定的な役割を果たす」(長谷島氏)のがデジタル化する経済の時代なのかもしれない。
Aron氏はモード1とモード2の違いを「予測可能型業務か探索型業務かで異なる」と表現する。モード1の場合、「ユーザー部門がITに求めるものはハッキリしている。IT部門は、ユーザー部門からの要求に応えるという組織だ」(Aron氏)。モード1の場合、IT部門にとってユーザー部門は“顧客”という存在だ。
これがモード2になると、ユーザー部門はIT部門にとって顧客ではなく、ビジネス上の“パートナー”という存在に変わってしまう。モード2での探索型業務の場合、「ユーザー部門もITに何を求めるのかが分かっていない。IT部門はユーザー部門と一緒になって、どんなITが必要とされているのかを探らないといけない」とAron氏は説明する。
「モード2では、ITを使ってどんなビジネスをしようとしているのかを一緒に考える必要がある。“ITコストを削減する、ERPを刷新する”などのニーズがハッキリと分かりやすいモード1とは大きく異なる」(Aron氏)
モード1とモード2の違いというのは、SoRとSoEというシステムの性格の違いを含めて、ユーザー部門とIT部門の関係もこれまでと異なり、企業とビジネスでのITの位置付けがこれまでとは大きく異なると解釈できる。
これまでの情報システムは、「安くしろ、より少ない人数で回す」(長谷島氏)ことが求められてきており、IT部門は「見合った形を確立してきた」。これは従来のモード1だ。だが、モード2は、モード1の延長線上にはない。これまでは異なる「ノンリニアなモード2が必要とされている」(長谷島氏)