展望2020年のIT企業

広がる生体認証市場の可能性

田中克己

2016-01-26 07:30

 機械学習などを駆使し、100万人、1000万人の識別、認証を瞬時に実行する生体認証エンジンを手がけるLiquid(リキッド)が、指や手のひらだけで認証、決済の用途を開拓している。金融機関や住宅設備メーカーなどと協業し、ATMやPOS、改札機などから住宅へと広げている。

指だけで決済するLiquid

 2015年10月31日、長崎県佐世保市のハウステンボスが指をかざすだけで、飲食や買い物ができる園内地域通貨のテスト導入を始めた。リキッドの生体認証技術とクラウドサービスを使って、入場口で指紋の登録とチャージした顧客が手ぶらで園内の店舗で決済できるというもの。店舗は、決済量とトランザクション量に応じて使用料を支払う仕組み。

 リキッドの久田康弘代表取締役は「自分の指だけで買い物をし、店員から『ありがとうございました』と言われる体験に感動する」と、財布もカードも持たない新しい世界を嬉しそうに話す。都内のフィットネスクラブや居酒屋チェーン、ホテルチェーンなどにも導入されている。

 久田氏は、居酒屋チェーンを例に顧客管理に生体認証のメリットを説明する。来店客に専用カードを配っても、次回の来店時にカードを持ってこなかったり、捨ててしまっていたりしても、指で決済までできれば、顧客満足度を高められる。

 前回の来店日やボトルの量などの来店時に顧客情報を画面に表示し、アルバイトに「田中さま、ありがとうございます。前回の魚料理はいかがだったでしょう。本日は新鮮な野菜料理も用意しております」などといった接客も可能になるという。

 用途は広がっている。15年12月に提供を開始した生体認証のクラウドサービスは、パッケージソフト会社や金融機関、人材会社などで活用され始めたところ。海外の導入事例も増えている。フィリッピンのある国立大学は、約5000人の学生の講義出欠や食堂の決済などに、スリランカのあるホテルグループはルームキー、レストランなどの決済にそれぞれ使っている。

 大掛かりなことにも挑戦している。総務省が進める数十万人を対象にした実証実験に参画し、地域通貨構想や災害時における決済の活用、マイナンバーとの連携など、新たな都市の可能性を探る。

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