北川裕康「データアナリティクスの勘所」

需要そのものを喚起する仕事をしよう ~今年もIT市場で戦うマーケターへ~

北川裕康 2016年01月13日 11時30分

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 松の内も過ぎてしまいましたが、あけましておめでとうございます。新年の最初の連載ということで、今回は、私の本業であるマーケティングの仕事について述べたいと思います。ITマーケターの皆さんに、今一度、マーケティングの仕事の本質と意義を確認していただき、今年の仕事の励みにしてもらいたいと思います。

 私は1993年にマイクロソフトに入社したときにエンジニアからキャリアを変更したので、かれこれ22年間マーケティングの仕事をしています。かのピーター・ドラッカー先生が「企業の目的は顧客創造である以上、企業の基本的な機能はマーケティングとイノベーションの2つしかなく、そのほかはすべてコストだ」と語ったように、マーケティングは企業にとって重要な機能の1つであります。

細分化されるマーケティングの役割


 かつて、マーケティングの基本は4P(Product:製品、Price:価格、Promotion:プロモーション、Place:場所)だと言われてきました。私自身が製品マーケティングを担当し始めたころは、マイクロソフトでも製品マーケティングの定義があまり確立されていなかったため、製品の出荷準備としてパッケージの部品の作成、製品型番の取得、出荷数の見積もり、そして発表会、販売後は毎月の販売・出荷量の見積もりからプロモーションまで、4Pのかなりの業務を担当しました。

 最近では、企業に求められるマーケティングは、この4Pよりかなり細分化されてきたように思えます。私がこれまでに経験した役割だけ列挙しても、製品マーケティング、競合マーケティング、エバンジェリズム、リレーションシップマーケティング、フィールドマーケティング、PR、マーケティングコミュニケーションなどがあります。その他にも、ソーシャルメディアマーケティングやらデジタルマーケティングやら、現在グローバル企業の中で、Job Description(職務記述書)が最も多く存在する(=役割が細分化されている)組織がマーケティング部門ではないでしょうか。


 さて、役割がかくも細分化されているマーケティングという仕事ですが、企業全体の中では、ざっくりと「マーケティングコミュニケーションや広報宣伝として、イベント、PR、広告・宣伝を実施する部門」と認識されているケースが多いようです。特に、外資で規模が大きくない企業では、マーケティングの主業務が「案件の芽であるLeadを作成すること」になっています。それも重要な役割ですが、それだけで良いはずがありません。

マーケティングの仕事の3つの役割

 私が考えるマーケティングの役割とは、「企業と市場をコミュニケーションでつなぐ」ことであり、以下の3点が求められます。イベント、PR、広報・宣伝などはそのための手段であり、Leadは成果です。

  • 開発部門が作成した製品のメッセージを、狙っている市場に最適な手段でデリバリして、需要を喚起する
  • 市場で起きていることや起きそうなことを社内に伝え、企業の戦略立案をサポートする
  • 企業の考えや取り組みを正しくステークフォルダーや将来の社員や顧客の候補者に伝える

 1つ目の「最初の需要を喚起する」という点について少し補足します。「需要を喚起する」は英語では「Demand Generation」と表現します。Lead Generation、Pipeline Generationとは言いません。

 LeadやPipeline Generationは、BANT条件というのがあり、BANT条件に合うお客さんを探してくるマーケティング活動です。BANT条件とは、Budget(予算)、Authority(決裁権)、Needs(必要性)、Timeframe(導入時期)の4つを指し、要するにプロジェクトが進行している状態で、予算があり決裁権のあるお客さんを探してくる活動です。

 この活動を否定するわけではありません。営業への貢献という意味ではとても重要な業務です。ただ、それも含めて、需要そのものを作り出す仕事をしたいじゃないですか。需要をつくり出すということは、「差別化された製品が生み出す価値のポテンシャルをメッセージにして、狙いたい市場に突き刺す」、市場に“ディープインパクト”を起こすようなイメージです。


 その手段として、Owned Media、Social Media、およびPaid Mediaでのコミュニケーションを活用します。そして、ディープインパクトを市場で作り出せば、需要とともに、認知もアップします。一石二鳥です。結果としてはLeadが生まれますが、その中でも大事なのは企業に入ってくるInboundでのLeadです。市場でインパクトを作ることができれば、お客さんはホームページに、コンタクトセンターに、営業に問い合わせてきます。これがInboundであり、イベントなどで作ったOutboundのLeadよりInboundは成約できる確度が10倍くらい違うというデータもあります。

 まとめますと、認知を向上させ、Inboundを誘発させるDemand Generationがマーケティングの重要な仕事だと言えます。PRや宣伝は、そのための活動です。

マーケターが市場に需要を喚起するための5つの要素

 それでは最後に、マーケターが需要を喚起し、市場にディープインパクトを起こすために重要な5つの要素について説明します。5つの要素とは以下です。

  1. 売りたい製品やサービス
  2. 1を買っていただきたい顧客
  3. どのようなコミュニケーションで1と2をつなぐか
  4. どのタイミングで3を実施するか
  5. 2の顧客を取り巻くビジネス環境や市場の理解

 1の「売りたい製品やサービス」についての考えは、以前に「自社のブランドが差別化されているかどうか、実は簡単に分かります 」という記事中でも触れましたが、つまり、5の「顧客を取り巻くビジネス環境や市場」を意識しながら、メッセージやポジションングをどのように作り出すかということです。


 2の「買っていただきたい顧客」に対しては、最適なセグメンテーションおよびターゲティングを行う。そして、3は「どのように効果的・効率的なコミュニケーションを実施するか」になりますが、現在ここでのポイントは「オムニチャネル・マルチチャネル」でしょう(今回は深く述べません)。

 マーケティングが、ついつい宣伝や4の活動だけに偏向してしまうことも多いと思います。ついついLeadのパフォーマンスを追ってしまうかもしれません。しかしながら、私は下品だと言われながらも部下のマーケターたちに「Show Me Money(銭見せや)」と言い続けてきました。マーケティングは、お金を使い、結果を出す部門であるので、その結果として活動から生まれる売上がマーケティングに求められるからです。上記の5つの要素で最高の仕事をしてこそ、マーケティングによってディープインパクトが生まれ、そして銭もついてきます。頑張りましょう!

北川裕康
SAS Institute Japan 執行役員 マーケティング本部 兼 ビジネス推進本部 部長。SAS入社以前は、シスコシステムズのマーケティング本部長、日本マイクロソフトの業務執行役員を務め、BtoBマーケティングで20年以上の経験を持つ。

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