大都市開催の理由
都市の大気汚染の削減が期待される最新のEV技術を披露するという目的の下、Formula Eは北京、ロサンゼルス、ロンドンといった大都市で開催される。大都市であるため、道路遮断など準備に時間を割くことは許されない。Tai氏によると、準備、プラクティスセッションは1日で実施するとのこと。「午前中の2回のプラクティスセッションの間に分析データを迅速に得る必要がある」とTai氏。
技術的には「脳中枢」と表現するHPEのサーバ「Moonshot」、さらに「3PAR」「Aruba」といったネットワーク技術などで構成するハードウェアを導入する。クラウドを利用するハイブリッド環境を構築し、ワークロードをクラウドに実装することも考えている。
バックアップは「StoreOne」だ。重要なのは、分析機能「Autonomy」と「Vertica」だ。このような技術環境により、トラックサイドで、レース中とレース後のバッテリ、バッテリ再生、温度、位置、ブレーキ、スロットル、レースのテレメーターなどのビックデータの高速な分析を実現している。
レースエンジニアのトップをはじめ、データエンジニア、パフォーマンス最適化などの専門家らは「Race Command」というダッシュボードを利用して、Autonomyがはじき出すデータにアクセスする。Tai氏によるとAutonomyがストリーミングするデータは、ほかのチームでは得られないような価値あるデータなのだという。
Virgin Racingは今シリーズ、HPEの支援を受けて新しい挑戦を試みた。Tai氏は「それまではレーシングカーからデータを取得して全チームがデータを共有していたが、今回大量の動画分析、音声分析などを高速に実施し、重要な情報をすべてレースエンジニアやチームに提供、ドライバーに高速に伝えられるようになった」と話した。「レース当日の慌ただしさを考慮すると、こんなことは不可能だと思っていた」と続ける。結果は出ており、直近のレースでは2位の成績だ。「技術はあきらかに勝利につながっている」と満足顔だ。
今後のロードマップについては、変化が激しくFIAの方針変更も頻繁にあるので「明日の課題が分からない中、明日の問題にすぐに反応できるようになる体制」が重要という。「将来の展望として、自分がすべきことは、すぐに変化を受け入れられる柔軟性、そして変化とともにわれわれも加速すること」と述べた。
実際、FIAは少し前に自動運転カーによるサポートレースの開催を発表したばかりだ。HPEを技術パートナーとすることで「さまざまな知的技術ソリューションを集めて、将来の選択肢を検証できる」とTai氏は述べた。
なお、分析はファンベースの分析にも活用する。ファンエンゲージメントと呼ばれる分野だが、これについては「まだまだ氷山の一角が見えたにすぎない」と述べ、今後の活用に期待を寄せた。

HPE Discoverイベント会場に展示されたDS Virgin Racingのレーシングカー