北川裕康「データアナリティクスの勘所」

DECの二の舞にならないように ~人と組織が変わるための書籍~

北川裕康 2016年01月28日 13時30分

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 「人は変わることができるか?」――。あくまでも仕事上での話しですが、私の中で長年ひそかな研究テーマにしています。人が変わるというのは、「カフカの変身」のように他のものへ変態するのではなく、その人の考え方と行動や行いが変わるということです。そして、人の考え方と行動や行いが変わると、組織の変化を促します。ビジネス上では、人の行動はプロセスである程度変えることが可能です。しかし、それだけでは人のもつポテンシャルを最大化することができないと考えます。

 なぜ、変化が必要なのでしょうか。私がこれを痛烈に体験したのは、今は無くなってしまった日本DECに勤務しているときです。DECは、Honestyという言葉が本当に企業文化として深く浸透しており、技術的にも面白い会社でした。1990年の私の入社当時は、飛ぶ鳥を落とす勢いで社員を増やしていました。しかし、「VAX 9000」というメインフレーム級のシステムを出したころから業績が怪しくなり、1993年には初めてのリストラが発生しました。

 変化できなかった企業の例として、このDECがよく引き合いに出され、その原因は一般的にはPCへの乗り遅れだと言われています。しかし、DECもIntelのPCを扱っていなかったわけでもなかった。また、同じようなビジネス形態であったHPは生き残りました。当時DECの中にいた者としては、UNIXとRISCプロセッサが急進するなかVAX/VMSにこだわり、その上で業界標準にAPIやプロトコルをあわせようとしたのが大きな原因だと感じています。業界標準という言葉は心地よいのですが、周りとほとんど変わりませんよ=差別化がない、ということにもなりかねません。

人が変わらなければ企業は変わらない


 企業や組織は、人の意思決定で成り立っています。人の考え方、そしてそれに基づく行動が変わらないと、企業や組織は変わりません。一方で、人や組織が変わらなくても、それを取り巻く環境が勝手に変わってしまいます。常に環境に合わせて変わっていかないと、外的な変化が生じたときに、DECのように手痛い目にあう可能性があります。

 これは、「イノベーションのジレンマ」の世界、特にテクノロジが急速に進化するIT市場でよく起こることだと思います。「あんなの敵ではない」と認識していた企業がいつの間にか実力をつけて、もの凄く手ごわい敵になったりします。MicrosoftにとってのGoogleだったり、大手コンピュータベンダーにとってのAWSだったりします。

人が変わるために読むべき本

 では、どうしたら人は環境の変化に適応して変わることができるのでしょうか。私がこれまでの研究の過程で読んできた書籍を紐解きながら考えてみましょう。

 まず、『入門から応用へ 行動科学の展開―人的資源の活用』(生産性出版)には、「変わるだけの知識がないから変わらない。だから、まずはトレーニングをして知識をつけて、行動させる」と書いてありました。たぶん、ここには、変化することへのモチベーションが必要になります。モチベーションという面では、企業の変革はA Sense of Urgency(危機感)からはじめる必要があると、リーダーシップで著名なジョン・コッター氏が言っています。でも、これだけでは常に人を変えることは厳しい気がします。


 『なぜ人と組織は変われないのか--ハーバード流 自己変革の理論と実践』(英治出版)に書いてあることは、かなり納得感がありました。同書では「人は“裏の目的”をもっていて、その“裏の目的”を本人に認知・理解させ、改善をプランさせて、行動を変えていかないと、人は変わらない」と言っています。

 例えば、マネージャーに昇格して部下を含めたリソースでパフォーマンスを最大化しないといけないのに、現場に行って部下と同じような行動をとる人って多いですよね。これは、頭のなかでは自分のミッションとして何をしないといけないかは分かっていても、「部下と同じように現場にいってビジネスに直接貢献して自分自身が気持ちよくなりたい」という裏の目的があるからです。この例にズキっとする方多いですよね(笑)。この裏の目的を本人に認知させるのは、お互い大変なエネルギーが要求されます。しかし、1つの有効な方法だと思います。

 変わりたい自分をどう探すかについて、これはいいなと思う方法を最近読んだ『出現する未来から導く』(英治出版)の中で見つけました。以下に引用させてもらいます。

  1. 自分の尊敬する・敬愛する上司や先輩を3人挙げます
  2. それぞれでいいなと思う特性を3つ上げます
  3. 出てきた合計9つの特性を自分の大切と思う順番に並べ替えます
  4. 9つうちの上位3つ特性を習得するための計画を立てて、そこに向かっていきます

 これは簡単であり、前向きに変わる下地が作れるよい方法かもしれません。

変化の必要性を「自覚」すること

 重要なのは、変化をしなければいけないと自分で気付くこと。自分の行動を変えることが組織の変化をリードし、組織の行動に影響を与えるということを自覚することです。


 思えば、私自身が「変化をしなければいけない」と気付いたきっかけは、人材育成コンサルティング会社ワンアソシエイツ 代表取締役の早勢弘一氏との出会いでした。早勢氏は、マイクロソフトに勤めているときに受講したリーダーシップ研修の講師でしたが、2年にわたる研修の中で「リーダーとして自分は何をすべきかと考えろ」と言われ続けて、これが、組織の変化をリードするためリーダーとして自分の行動を変えなければいけないという自覚につながりました。自分が何をすべきかは、そのポジションに求められている期待であり、優先事項です。

 現職のSASも、目下、変化を迫られてます。SASはもともとニッチプレーヤーの典型で、ニッチだったアナリティクスの市場を牽いんしてきました。それが今、ビッグデータのブームを経て、アナリティクスやデータ分析がITの主要テーマになり、さらにIoTなどで市場を急速に広がっています。市場が広がると競合も激化します。このような環境で勝ち抜くために、私を含めた社員全員の意識や行動の変化が求められているのです。

 最後に。繰り返しになりますが、過去にDECが経験したように、常に外的な変化に合わせて変わっていかないと、企業は生き残れません。企業は人で組織され、その中の人が変わらなければ企業は変わりません。そのことを自覚できた人が、企業をリードするリーダーになれるのだと思います。

北川裕康
SAS Institute Japan 執行役員 マーケティング本部 兼 ビジネス推進本部 部長。SAS入社以前は、シスコシステムズのマーケティング本部長、日本マイクロソフトの業務執行役員を務め、BtoBマーケティングで20年以上の経験を持つ。

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