ファナックとシスコシステムズが先ごろ、IoT(Internet of Things)技術を活用して産業用ロボットの稼働率向上を図るサービスを共同開発したと発表した。ファナックはなぜシスコと組むことにしたのか。
両社で「ゼロダウンタイム」ソリューションを展開
ファナックとシスコが共同開発したのは、製造業の工場で稼働するロボットをネットワークに接続し、遠隔監視や故障の予知・診断を可能にすることでロボットの稼働率向上を図るサービスである。
工場内に設置されたサーバでロボットの稼働状況を解析し故障予知を行うことによって、定期メンテナンス時の部品交換や不意の生産ラインの停止、生産エリアや工場全体で生産業務の中断に至る事態を回避できるようになるとしている。
今回の発表に先立ち、両社は既に北米の大手自動車メーカーで12カ月間に渡ってパイロットプロジェクトを実施し、生産設備やロボットのダウンタイム(停止時間)をほぼゼロにすることができたという。
ファナックはこれを基に「ゼロダウンタイム(ZDT)」ソリューションとして今夏にも実用化し、自動車業界を中心に製造業の顧客に提案していく構えだ。一方、シスコもこのソリューションを支えるサーバやネットワーク機器、クラウドサービスなどを提供し、IoTパートナーとして協業を深めていく考えだ。
シスコシステムズ専務執行役員でIoT分野を担当する鈴木和洋氏は発表会見でファナックとの協業について、「今回はロボットが対象だが、ファナックはCNC(数値制御装置)の世界トップメーカーでもあることから、FA(ファクトリオートメーション)領域全体へ協業を広げていきたい」との意気込みを語った。
会見で質問に答えるファナック専務取締役の稲葉清典氏(左)とシスコシステムズ専務執行役員の鈴木和洋氏
IoTパートナーの決め手はセキュリティ技術
両社の協業で筆者が最も注目したのは、ファナックがなぜシスコをIoTパートナーに選んだのかだ。この点についてファナック専務取締役ロボット事業本部長の稲葉清典氏は、「今回のようなソリューションでお客様が最も気にされているのは、情報漏えいをはじめとしたセキュリティへの対応が万全かどうかだ。その点でシスコの製品やサービスがしっかりと担保されていることが決め手になった」と説明した。
発表会見の質疑応答でこの点を質問した際、筆者はシスコだけにネットワーク技術が一番に挙げられるだろうと予測していたが、稲葉氏は「ほかにもネットワークの高速技術など細かい部分はあるが、一番はセキュリティ技術」と強調していた。同氏の回答にあらためて、IoT分野におけるユーザーの最大の懸念はセキュリティ対策にあるとの印象を強く受けた。さらに、シスコが有数のグローバルベンダーであることも、ファナックにとって必須条件だったのは間違いないだろう。
とはいえ、日本が得意としている製造業での新たな取り組みだけに、日本のICTベンダーも今後はシスコなどのグローバルベンダーと渡り合っていけるようにならなければいけないのではないか。FA分野で大きな影響力を持つファナックがIoTパートナーにシスコを選んだのは、この分野で活路を見出さなければいけない日本のICTベンダーへの警鐘とも受け取れる。
日本のICTベンダーにとってグローバル展開は大きな壁だが、今回ファナックがシスコを評価したセキュリティ技術については精査し追随する必要があるだろう。ファナックとシスコによるIoTの最先端に注目するとともに、日本のICTベンダーの奮起も強く促しておきたい。