被害は確実に広まっている--標的型攻撃のことを忘れていませんか

田中好伸 (編集部) 2016年01月29日 07時30分

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 2011年の三菱重工業、2015年の日本年金機構の事件を振り返ればわかるように、標的型攻撃は組織の関係者を装ってメールでやり取りすることで組織内部に侵入する。メールの文面は巧妙になってきており、一見する限りは、犯罪者によるものだとは思えない。標的型攻撃に活用されるメールには誰でも騙されると指摘しても言い過ぎではない。

 標的型攻撃を含めてITを活用した犯罪は、こうしたアプローチを取っている。組織のセキュリティ診断などを手掛けているゲヒルンの代表取締役の石森大貴氏は、こうしたアプローチについて「内部から穴を空けることを狙っている」と表現する。

 セキュリティ関連技術は常に進化しており、ファイアウォールはもちろん不正侵入検知システム(IDS)や不正侵入防止システム(IPS)、クライアントやサーバなどのエンドポイント保護での定義ファイルに加えて、エンドポイント内部でのファイルの状況を見て判断する振る舞い検知、ネットワークを流れるパケットをつぶさに検査するディープパケットインスペクション、仮想環境でファイルの状況を見て検知するサンドボックスなどさまざまに進化してきている。

 セキュリティの領域では、外部とのゲートウェイから組織内部のネットワーク、そしてエンドポイント保護といったいくつもの場所で保護対策を講じる多層防御が当たり前になりつつある。そのために、犯罪者が侵入の手段として効果的と認識しているアプローチが、組織内部から外部に穴を空けさせるという状況だ。

 SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングといった外部に公開されているウェブアプリケーションなどに脆弱性がないとなると、組織内部の人間を安心させてから、メールの添付ファイルをクリックさせるという手段の方がよっぽど効果的というのは合理的と言える。

 標的型攻撃がかつてのマルウェアと異なるのが、標的ごとにカスタマイズされているために、侵入されたとしてもなかなか気付きにくいという問題がある。ZDNet Japanは、2015年5月にサイバー攻撃をテーマにユーザー企業による座談会を開催。参加者全員が「標的型攻撃による被害がないとは言い切れない」という不安を抱えていることを明らかにしている。

 標的型攻撃への不安を抱えている日本企業の実態はすでに定量的にも示されている。

 独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)は2014年7月に、広まりつつある標的型攻撃による被害拡大防止を目的に専門組織“サイバーレスキュー隊(Cyber Rescue and Advice Team against targeted attack of Japan:J-CRAT)”を発足。企業や公共団体などの法人からの相談を受け付けている。

 J-CRATへの相談件数は、2015年度上半期(2015年4~9月)に246件。41件だった2014年度上半期(2014年4~9月)の6倍となった。2015年度上半期の246件のうち、実際にレスキュー支援したのが104件で前年度上期の5倍。被害に遭った法人の現場にJ-CRATが出向いてのオンサイトで支援したのは31件であり、前年度上期のやはり5倍となった。

 日本は確実に標的型攻撃を受けているという事実を忘れてはいけない。

 こうした状況を踏まえて、ZDNet Japanと姉妹メディアのTechRepublic Japanはセミナー「変容する標的型攻撃に対処は可能か~限界を迎えた従来対策、陥りやすい誤解~」を2月3日に開催する。基調講演には「システム管理者、経営者、攻撃者 それぞれの立場から見る戦いの動機と心理」をテーマにゲヒルンの石森氏が登壇する。

 石森氏は現在25歳と若いが、ゲヒルンの代表取締役を務めている。同氏は小学生の頃から自宅にサーバを立てるなどITに精通。高校生の時には、経済産業省とIPAが中心となって、セキュリティ人材を育成するための「セキュリティキャンプ」に参加。2008~2009年にはセキュリティキャンプの講師補助を務めた経験もある。

 石森氏はまた、テレビドラマでのクラッキング場面を技術的に考察したブログでも話題となった。これが縁でセキュリティベンダーに声をかけてもらい、高校3年生の時に擬似的にハッキングして企業の脆弱性を診断したり、企業や官公庁へのサイバー犯罪演習講座の講師を務めていたりといった才能を発揮している。大学を進学するも休学して現在に至っている。

 ゲヒルンは現在、擬似的にハッキングして企業の脆弱性を診断するなどのサービスを提供しており、著名な金融機関などを顧客として抱えている。また、同社には石森氏のほかにも有能な技術者が在籍しており、先頃ウェブブラウザ「Firefox」の脆弱性を発見している。

 セミナーの基調講演で石森氏は「標的型攻撃は攻撃者のビジネス」として、攻撃者の心理を解説するとともに、攻撃を仕掛ける側、攻撃を受ける側のシステム管理者と経営者のそれぞれの立場からセキュリティを考えると説明している。

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