セキュリティの論点

「情報セキュリティ人材が足りない」は本当か

中山貴禎

2016-02-11 07:00

 「情報セキュリティの技術者が足りない」という話をニュースでよく耳にします。国内では、例えばサイバーセキュリティ基本法に絡んだ話や、さまざまな情報セキュリティ事件や事故などの際、はたまた2020年に開催される予定の東京五輪に関連した話といった具合です。

 そして「情報セキュリティの技術者を志す若者が少ない」といった話も、同じくこの業界界隈にいると今に始まったことではないのですが、昨今の話題の1つとなっています。それに関連して、昔に比べると学生や若い技術者、また女性の技術者向けのセキュリティイベントやコンテストなどが数多く開催されるようになったり、例えば「攻殻機動隊」とのコラボレーションのようなメディアミックスが実現したりするなど、状況を打開せんとさまざまな工夫が検討され、実施されています。

 こうした状況は何も国内に限った話ではないようで、例えばアンチウイルスで有名なカスペルスキーの創始者で現在最高経営責任者(CEO)を務めるEugene Kaspersky氏は「数が少ないからこそセキュリティ技術者にはフットボールプレイヤー並みの給料がかかる」という要旨の発言をしていますし、国内外でセキュリティ人材不足を語る記事を見かける機会は少なくありません。

 さて、こうした状況下、世界中で求められているこの“情報セキュリティ技術者”とは何を指すのでしょうか。それぞれの場面で使われている“情報セキュリティ技術者”という言葉が表している明確なイメージが固定できないというか、それぞれの場面で想定される別のスキルを持った役割を一つの単語に無理矢理当てはめている気がするのです。


 もちろん、国家間のサイバー戦争や巨大企業を狙う攻撃者集団、政治的な主張のためにサイバー攻撃をしかける「ハクティビスト」などに最前線で立ち向かう“情報セキュリティ技術者”が、攻撃者の数に比して明らかに不足していることは事実でしょう。Kaspersky氏の話はこの類の話だと考えています。しかし、そうではないケースも多く存在するのではないでしょうか。

 情報セキュリティ技術というのはスキルだと感じています。

 料理の世界で例えると、和食やフランス料理などさまざまな食の種類がありますが、そうした店を経営することや、コックにウェイター、店舗や制服などのデザインやコーディネート、市場のマーケティングなどの職務に紐づき、包丁を上手く扱うほか、コメを上手に炊いたり、顧客に不快感を与えないコミュニケーションスキルといった数多くの専門スキルが必要とされます。料理の世界でプロのウェイターとして生きていくには、相手に不快感を与えない話術や雰囲気づくりなどのスキルは極めて高度なレベルのモノが必要とされますが、一般に社会で暮らしていく上でも、一定のレベルでは身に着けておくべきものです。

 同じく現在、情報セキュリティ技術やリテラシーは「情報セキュリティ技術者」、つまり「専門家」ではなくとも、ある一定のレベルで身に着けておくべきスキルであると考えています。特にIT関連の職業についてはもっとこの情報セキュリティ技術の「常識レベル」を向上していく必要があるとも感じています。

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