デザインエンジニア
近年、デザインとエンジニアリングの双方のスキルを持つ「デザインエンジニア」というスタイルが注目を集めている。カバー範囲の広いUIデザイナーをさらに極めたようなタイプともいえよう。そういった人材は、デザインのアイデアを出し、素早くプロトタイピングまでを請け負うことができるので、UIやUXの検討が効率的である。
エンジニアの知識やスキルとデザインの知識やスキルはどちらから、どのタイミングで身につけてもよい。すなわち、エンジニアも、デザイナーもこれからデザインエンジニアになることは可能である。
UIやUXの重要性が高さに関して、例えば、IBMは「ビジネス戦略とユーザーエクスペリエンスのデザインの間には、もはや明確な区別はない」との見解を述べている。ユーザーと係わる部分において、エンジニアリングというのは一般的にUXを考慮する必要があるということであり、戦略的にも、多かれ少なかれ「デザインエンジニア」的要素をもったエンジニア(もしくはデザイナー)がどの組織にも必要とされてくるであろう。
さらには、チームラボの猪子寿之社長は「ビジネスのアウトプットが、アートのように感動するものでないと生き残れなくなっていく」というように述べている。これは「アーティスト」が必要になるというわけではなく、各自が「アート的な感覚」を持つ必要があるということである。
UIデザイナー、UXスペシャリスト、デザインエンジニア、CDO/CXO、どんな名前で呼ばれる職種や役目であっても、デザインやエンジニアリングのための基礎的/応用的な知識や経験などに加え、プラスアルファとしてのアートのセンスが鍵となってくるであろう。
これは UI/UXに関わる人たちだけに限った話ではないが、関わる人たちは特に意識していきたい事柄である。
人材育成
ここまで書いてきたような役割を担える知識やスキルを持った人材は、現状の組織内には充分にいないかもしれない。あるいは、知識やスキルが(初期段階では)まだ充分ではないかもしれない。
基本的な部分は学校などで、もしくは本などを通し独学や仲間同士で学び、訓練するしかない。そこからレベルアップして、また幅を広げるためには、多様かつ雑多なことをさまざまな場面で吸収していかねばならない。
組織は、それらの人材がさまざまな場面に触れ、多様な経験を積み、高いモチベーションを持って色々なことを吸収できる機会を増やす方策を考えるべきである。そして、組織自身や組織全体も、同じようにさまざまな場面に触れ、多様な経験を積み、高いモチベーションを持って色々なことを吸収し、「アート的な感覚」まで磨いていかねばならない。
最後に
今回は詳しく触れられなかったが、UIのテストや評価をするためには、認知心理学の専門家や、ユーザビリティの専門家が必要である。「専門家」ほどではなくとも、少なくとも、認知心理やユーザビリティの基礎的な知識に加え、「実験」のための知識やスキル、得られたデータを読み解くための知識やスキルを持つ人が必要だ。
必要なテストや評価のレベルを見極め、適切な人材を揃える必要がある。
次回は、UI/UXの向上を推進するために組織内でアプローチすべきポイントなどを考えていきたい。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。 ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。 HCI が専門で、GUI、実世界指向インタフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。