東京工業大学大学院理工学研究科教授の西森秀稔氏は2月3日、自身のウェブサイトで「量子アニーリング」を計算に利用する量子コンピュータの最新開発状況を公表した。
米国の情報先端研究プロジェクト活動(IARPA)では、マサチューセッツ工科大学と米国国防総省の出資で設立した研究所MIT Lincoln Laboratoryが中心になり、商用量子コンピュータである「D-Wave」をはるかにしのぐ性能を持つ「量子回路モデルと等価な機能(万能量子計算)が可能な」(量子アニーリングを計算に利用する)量子コンピュータ実現への計画が始まったという。米国を中心に世界中からトップクラスの研究者や研究組織、企業を集めて膨大な資金を投入しつつあり、すでに高水準の成果を上げ始めているとした。
量子アニーリングは西森氏が提唱した量子ゆらぎが多い環境からゆらぎを少なくしてゆき、エネルギーが極小になる最適解を求める計算手法であり、量子コンピュータのひとつの形式として注目されている。
量子アニーリングに詳しい京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻助教の大関真之氏は、「D-Waveが採用している量子アニーリングという手法は、これまでのコンピュータでシミュレーション可能な範囲でした。そのためさまざまな側面で検証が進むといういい点もありました。確かに量子力学を利用していて、これまでのコンピュータとの能力を比較しやすかったのです。次は量子アニーリングを計算に利用する“真の量子コンピュータ”への挑戦です。コンピュータによるシミュレーションができない“量子ゆらぎ”を追加することで、最後の一手を打つわけです。もちろん量子ゆらぎをうまく制御する技術や、量子状態を保持する誤り耐性を引き上げる研究もより一層重要となりますが、これによりD-Waveでは困難だった素因数分解アルゴリズムの実装が可能な(量子アニーリング型の)量子コンピュータが生まれる可能性があります」と解説。実現されればこの分野の状況が根本的に変わるほどのインパクトとした。
IARPA以外にもGoogleのQuantum Artificial Intelligence Laboratoryも量子アニーリングをベースにしたコンピュータの開発に着手しており、量子アニーリングを利用した量子コンピュータの開発競争が激化している。
素因数分解アルゴリズムが実装できる(量子アニーリング型の)量子コンピュータの実現により、グローバル規模の流通コストを最適化することや都市での交通渋滞の解消などで応用できる”組み合わせ最適化問題”をこれまで以上の速度で解決することが期待されている。