本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、日本IBMのポール与那嶺 代表取締役社長と、レノボ・ジャパン 安田稔 執行役員専務の発言を紹介する。
「テクノロジはさまざまな問題解決のための手段であって目的ではない」 (日本IBM ポール与那嶺 代表取締役社長)
日本IBMのポール与那嶺 代表取締役社長
日本IBMが先ごろ、グローバル企業の最高経営責任者(CEO)を対象にした調査レポート「IBMグローバル経営層スタディ CEOの視点:破壊者との競争と共創」について説明するとともに、マネックスグループ代表執行役社長CEOの松本大氏を招いて、同レポートのテーマについてパネルディスカッションを実施した。与那嶺氏の冒頭の発言は、そのパネルディスカッションの中で、テクノロジのありようについて語ったものである。
調査レポートの内容については関連記事を参照いただくとして、ここではパネルディスカッションの中から筆者が興味深く感じた話題を取り上げておきたい。その話題とは、GoogleやAmazon.comなどの大手ネットサービス企業への対抗策についてだ。
モデレーターを務めた米IBMグローバル・ビジネス・サービス(GBS)事業本部バイスプレジデントのPeter J. Korsten氏が、「大手ネットサービス企業は今や利用者に対して決済をはじめとした金融サービスも手掛けている。こうした動きは金融業界にとって脅威ではないか」と、ネット証券をはじめとした金融サービスを展開するマネックスグループを率いる松本氏に聞いた。
これに対し、松本氏は「非常に脅威だ。金融業界での競合よりも手強いと感じている。なぜならば、そうしたネットサービス企業はカスタマーリレーションに長けているからだ。今後、金融サービス市場では熾烈な戦いが繰り広げられるだろう。その中で私たちが生き残っていくためには、これまで培ってきた知見やノウハウをもとに、顧客が求めるサービスをさらにきめ細かく提供していく必要がある」と答えた。
与那嶺氏はこの話題について、テクノロジの観点から次のように語った。
「大手ネットサービス企業はクラウドコンピューティングなどのテクノロジをいち早く駆使して、サービス領域を広げてきている。ただ、ビジネスのさまざまな課題に対して、テクノロジだけで全てを解決できるわけではない。きめ細かい業務ノウハウやインテグレーション能力なども必要だ。したがって、テクノロジを生かすためには、そうした技能を持つ企業と幅広く協力するエコシステムの構築が非常に重要な取り組みになってくる。それはIBMが今注力しているコグニティブ(認知)コンピューティングのWatsonも同じことが言える。Watsonは最先端のテクノロジだが、それをどう生かして顧客にとって役立つものにしていくかが、私たちにとってこれからの勝負どころとなる」
パネルディスカッションで語り合う日本IBMの与那嶺氏(右)、マネックスグループの松本氏(中央)、米IBMのKorsten氏