4番目の産業に--オープンデータ活用、ITでも街づくり目指す福井県鯖江市

大河原克行 2016年02月15日 17時52分

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 デルは、同社が世界規模で推進する「Future Ready Workforce」の一環としてテクノロジを活用した地方創生支援に取り組んでいる。このほど、福井県鯖江市と提携し、デルのPCやタブレット、液晶ディスプレイなどを提供、地域活性化に向け技術面から支援することを発表した。インテルが同プログラムをサポートする。

 2月12日、鯖江市内にある、ITを活用したモノづくりを教える「Hana道場」で鯖江市長の牧野百男氏とデルの公共営業統括本部長の塙暢彦氏が出席して、目録を贈呈した。

デル 公共営業統括本部長 塙暢彦氏(左)と鯖江市長の牧野百男氏
デル 公共営業統括本部長 塙暢彦氏(左)と鯖江市長の牧野百男氏

 牧野氏は、「鯖江市は、めがね、繊維、漆器に続く、4番目の産業として、ITを活用した街づくりを進めている。今回のデルとインテルの支援で行政や市民のIT利活用の促進のほか、IT企業の集積、UターンやIターンによる市外、県外からの人口流入にきっかけになることを期待している」と述べた。

 デルは、3月末までにノートPC「Latitude E7000」シリーズや小型PC「Optiplex 7040 Micro」、4K対応液晶ディスプレイ、タブレット「Venue」シリーズを提供。鯖江市役所のIT会議室に設置するほか、市内にあるHana道場、街なか休憩所として活用されている「らてんぽ」、越前漆器を展示、販売している「うるしの里会館」にも設置して、これらの機器を非営利法人(NPO)やコミュニティー、市民たちが利用するとともに、市役所と結んだ遠隔会議ができる環境を実現する。

オープンデータアプリの利用率は1%

 もともと鯖江市は、IT活用に積極的であった。

 牧野氏は、「鯖江市には、街づくりの3本の矢がある。ひとつは、2010年度に市民主役条例を制定してスタートした市民主役の街づくり。2つめには、2005年度に開始した若者や学生が集まる街づくり、そして、2006年度から開始したオープンデータによるITの街づくり」と語り、IT活用が街の活性化に重要な役割を担っていることを示す。

 市民主役の街づくりでは、市民受託型で38の事業が市内で推進されているほか、若者や学生が集まる街づくりでは、2004年の福井豪雨の災害復興支援活動をきっかけに市内の河和田地区で京都精華大学がアートキャンプを実施。福井工業大学や福井大学、明治大学、慶応義塾大学などと連携し、学生の提案を市政に反映。大学がない街であるにもかかわらず、夏休み期間中などには学生たちが集うイベントが数多く開催され、これらの参加経験をもとに鯖江市に若者が移住するといった動きがみられている。

 そして、オープンデータを活用したITの街づくりでは、地元の福井高専卒業生である、秀丸エディタ開発者のサイトー企画の斉藤秀夫氏、エムディエスの田辺一雄氏、jig.jpの福野泰介氏と連携。2006年5月から牧野氏がブログを開設して、市民に対する情報発信を開始する一方、2012年1月には、福野氏がオープンデータを活用した市内のトイレの場所を示すアプリを公開し、「データシティ鯖江」としてオープンデータの活用に積極的に乗り出していた。

 「鯖江市がオープンデータ活用の検討を開始したのは2010年12月。そして、第1号となるトイレ情報アプリの提供開始が2012年1月。電子行政のオープンデータ戦略が策定された2012年7月よりも、1年半も前にオープンデータをすでに活用していた。現在では、150種類の公開データがあり、民間作成のアプリは約120種類に達している」という。

 シニア層が参加する高年大学では、鯖江市内10地区の公民館でタブレットやアプリを使ったセミナーを開催。市民にITを身近に感じてもらうためのIT推進フォーラムも毎年開催してきた。さらに、小中学校にプログラミングクラブを発足。福野氏が開発した、こども向けコンピュータ「IchigoJam」によるBASIC学習を開始しており、「プログラミング教育義務化に向けて、すでに市内の中学校1校、小学校3校で実施している」という。

 そのほか、国産めがねフレームでは9割以上のシェアを持つ強みを生かして、スマートグラス分野での企業連携の働きかけを開始しており、すでに地元企業が村田製作所などと共同で開発するといった動きも出ている。

 オープンデータの活用では、バスの運行状況を確認できる「バスどこサービス」、水位センサを設置し、リアルタイムに水位を確認できる河川水位オープンデータなどを提供。市が中心となって、河川の急激な増水や災害で危険なところ、道路の補修が必要なところなどを写真付きで市民がレポートする「さばれぽ」を開発した。先ごろ、NECソリューションイノベータの市内への派遣社員により、子育て支援アプリが開発され、今後、全国規模で横展開していく計画だという。

 だが、課題がないわけでもない。牧野氏は「鯖江市におけるオープンデータアプリの利用率は1%に留まる。今後どう活用していくかが課題になる」とする。

 ITの利活用提案をさらに加速させることが、同市におけるテーマとなっている。

 牧野氏は「これまでの活動を通じて、働く世代にとって魅力がある街づくりを目指してきた。ITの利活用はそのためには重要な要素であり、地方でも都市部と同じような暮らしができるITを活用した新たな公共サービスの創出も必要になる。特にプログラマーにとっては魅力的な、未来の街として捉えられるように努力したい。最先端のデータシティであるのは間違いなく、めがねの街としてだけでなく、オープンデータの街としての発信も続けていきたい」と語った。

 「今回のデルとインテルによる提案はありがたい。テレビ会議システムの活発な活用も可能になる。鯖江市は、企業誘致や工場誘致による発展ではなく、内発的発展によって既存産業を活性化させてきた、モノづくりのイノベーション最先端地域。首都圏への集中傾向が加速する中で、地方に回帰するような新たな形で取り組んで、これを鯖江市の成功モデルとして、全国に波及させていくことを目指したい」(牧野氏)

新しいワークスタイルで企業を誘致

 デルの塙氏は、今回の鯖江市との連携で基本戦略になったFuture Ready Workforceについて「ユーザーの嗜好、セキュリティへの対応などエンドユーザーを取り巻く環境は変化しており、それにあわせたソリューションが求められている。デルは、デスク型、社内移動型、外勤型、在宅型、特定型という5つの働き方に分類し、それぞれで提案している。フリーアドレス化やモバイルデバイスの活用といった環境で対面でのコミュニケーションできるような環境を提供するとともに、創造的な活動ができる環境の実現などに力を注いでいる」と触れた。

 「今回の提携は、鯖江市の先進的な取り組みを背景に、当社から支援を申し出たもの。デルが日本の自治体に対して導入してきた数々の実績と、デルにおけるオフィスイノベーションの取り組みをもとに提案したものである。ワークスタイルという新たな切り口から鯖江市の発展に寄与できる」(塙氏)

 提供するPCには、第6世代Coreプロセッサを搭載。オンライン会議技術「Intel Unite」を活用することでPCとタブレットをプロシェクタやディスプレイを有線ケーブルで接続する必要なく利用できる環境を実現。複数の画面も同時に表示でき、コラボレーションを促進できるとした。

 「市役所だけでなく、市内の個人や団体、企業が利用できる。コミュニケーションを支援する。1カ所に集まって会議するだけでなく、複数拠点をまたいだ会議やコラボレーションができる。これにより、鯖江市内のコミュニティーの活性化のほか、新たなワークスタイルの活用により、ITベンチャー企業の誘致、県外や市外からの移住などにもつながることを期待している。IT支援で鯖江市の地方創生に役立てればと考えている」(塙氏)

鯖江市役所

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