人工知能(AI)の第一の目標は、思考できる機械を作ることだ。では、それを実現するにはどうしたらいいだろうか。その方法の1つに、われわれ人間自身が使っているリアルタイムモデル、つまり人間の脳を調べるというやり方がある。
長年の間、人工知能の分野では、機械に学習させるために、脳の生物学的な仕組みを真似たニューラルネットワークの技術を使ってきた。しかし今回、カーネギーメロン大学計算機科学部は、脳に内蔵されている「ルール」を解明して、その知見をAIの技術に反映させるために、脳の研究に1200万ドルを投資しようとしている。
このTai Sing Lee教授が率いるプロジェクトは、オバマ大統領が推進するBRAIN Initialtiveの一部であるMachine Intelligence from Cortical Networks(MICrONS)研究プロジェクトを通じて資金を調達する。
AI研究者はすでにニューラルネットワークを使っているが、この研究はそれを刷新することで、機械の顔認識や音声認識、意思決定などの能力を改良しようとする試みだ。
「現在使われている最も強力なニューラルネットワークが、1950年代のアイデアに基づいていることを考えれば、技術的な影響は非常に大きなものになる可能性がある」とLee氏は言う。
同氏によれば、ニューラルネットワークのアルゴリズムが成功した主な理由は、計算能力の向上とGoogleとFacebookによって提供されたラベルデータだという。GoogleはDeepMindを、FacebookはAI研究所を持っており、Baiduも深層学習を研究する機関を持っている。「これらの企業は、みなニューラルネットワークの進歩を収益化しようとしている」というのがLee氏の意見だ。
では、このプロジェクトはどんな問題に取り組もうとしているのだろうか。「今使われているアルゴリズムは、フィードファーストアーキテクチャを基礎にしている。ニューロンのレイヤの上に別のニューロンのレイヤを重ね、入力から出力にマッピングするという手法だ」と同氏は述べている。
Lee氏によれば、不足しているのは再帰的な接続だという。同氏は「情報がフィードフォワードされるときには、同時に多くの情報が返ってきている」とし、ときには、「フィードバックには、フィードフォワードの接続の10倍以上の接続があることもある。その逆方向の接続は、脳にとって何か意味があるはずだ。そうでなければあまりにも多くの接続を無駄にしすぎていることになる」と述べている。
Lee氏は、フィードバックがどんな役割があるのかを調べようとしている。同氏はニューロンの情報伝達のうち、ボトムアップのものは5%から10%に過ぎないと述べている。「ほとんどの情報は、脳の別の領域から来ている」(Lee氏)
Lee氏は、このフィードバックが情報を総合し、何が見えると期待すべきかを知るのに役立っていると考えている。
「これは、この仕組みの細部を詳しく調べるチャンスだ」とLee氏は言う。「これはハイリスクで、影響も大きいプロジェクトだ。これまでにこの研究はまったく行われてこなかった」