今のところ、脳の仕組みを再現することはできていない。モデルはいくつもあるが、Lee氏によれば決定的な答えはまだ得られていないという。研究チームはこの研究で、動物の脳から採取した、5万個のニューロンを含む非常に小さな組織標本(1mm×1mm×1mm)を調べる(人間の脳には数十億個のニューロンが存在する)。同氏は神経活動の回路を再現し、「その計算ルールをコンピュータシステムに取り込む」ことを目指している。
この研究を進めていけば、脳の神経網がどのように働いており、どんなときに働かないかを理解するための知見が得られるかも知れない。
現在のニューラルネットワークは、大量のデータを必要とする。「これには基本的に、(例えば車などの)絵を示す先生と、それを判別する仕組みが必要になる。これが教師あり学習だ」(Lee氏)
Lee氏が目指しているのは、人間が外部世界との相互作用を通じてどのように学習しているかを知ることであり、同氏はこれを「例からの教師なし学習」と呼んでいる。
例えば、「スタートレックのスポックを見れば、その例を元にして、この人物は人間に似ているが、別の特徴も持っていることが分かる。人間はその後、その情報の一般化を行う。そして、その星の別の人物に会ったときには、同じ種に属しているということが分かる」とLee氏は説明する。
同氏は、教師あり学習には大量のデータを必要とするが、教師なし学習を改善できれば、少数の例を見るだけで学ぶことができるようになるかもしれないと語る。
創造性と、想像力と、洞察力を持つというのは、人間の特長でもある。「応答的にではなく予測的な思考ができるよう、外部世界に対する内部モデルを使ったフィードバックを作りたいと思っている」(Lee氏)
例えば、車を運転するときには多くの要素を考慮する必要がある。歩行者はどこにいるのか?道路に沿って走っているか?標識はどんな情報を示しているか?学習している最中には、これらの要素に十分な注意を払う必要があるが、これらの処理はすぐに自動的にできるようになる。Lee氏によれば、これは人間が予測に役立つ内部モデルを持っているためだ。「これによって、素早い理解が可能になる。予想と何か違うことが起きたときには、人間は非常に素早く反応することができる」と同氏は言う。
Lee氏は、「これは脳研究のアポロ計画のようなものだ」と述べている。「これを進めるには、数学、計算能力、エンジニアリングを信頼して、成功すると信じる必要がある。しかし、月に着陸できるかどうかは、まだ分からない」
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。