仮想マシンをLPARで稼働--日本IBM、メインフレームのミッドレンジに新機種

日川佳三

2016-02-17 18:31

 日本IBMは2月17日、メインフレームのミッドレンジ新機種「IBM z13s」を発表した。3月10日から出荷する。

 既存のミッドレンジ機種「IBM z12BC」(2013年9月出荷)の後継に当たり、現行のハイエンド機種「IBM z13」(2015年3月出荷)の廉価版に当たる。既存モデルと比べてハードウェア性能を高めたほか、仮想アプライアンスを論理区画(LPAR)で動作させるといった新機能を利用できるようにした。

 ミッドレンジクラスの既存機種と比べ、I/Oバンド幅、最大メモリ容量、プロセッサコア性能などのハードウェア性能を高めた(図1)。データベースをインメモリで高速に処理したり、複数チャネルの生データをリアルタイムに分析したりするアプリケーションを、これまでよりも容易に実現できるようになった。例えば、最大メモリ容量はzBC12の512Gバイトに対して8倍の4Tバイトに向上した(ハイエンド機のz13は10Tバイト)。

図1:ミッドレンジクラスの既存機種と比べてハードウェア性能を高めた
図1:ミッドレンジクラスの既存機種と比べてハードウェア性能を高めた
z13sの外観
z13sの外観(日本IBM提供)

 z13sの発表にあわせて、現行メインフレーム(z13とz13s)に新しい機能も追加した。(1)仮想アプライアンスを専用のLPARの上で動作させる機能「z Appliance Container Infrastructure」(zACI)、(2)z/OS同士のネットワーク通信を高速化する「Shared Memory Communications - Direct Memory Access」(SMC-D)、(3)Linux環境でz13/z13sの構成を管理するGUI管理画面「Dynamic Partition Manager」――などが追加された。

 (1)のzACIは、OSやアプリケーションを含めたz13/z13sの仮想マシンイメージをLPAR上で動作させる機能。REST APIやウェブGUIを介して環境を操作できる。

 これまでのLPARやハイパーバイザのz/VMと比べ、アプリケーションのポータビリティ(可搬性)などに優れるとしている。日本IBMは、zACI向けの仮想アプライアンスとして、システム障害の予兆を検知する「IBM zAware」などを提供する。

 (2)のSMC-Dは、筐体内のz/OS同士のデータ通信を高速化するネットワーク機能。z/OSマシン同士が相手のメモリに直接アクセスすることによって、汎用のソフトウェアスタックであるTCP/IPのソケット通信と比べて、プロセッサへの負荷などを低減できる。ストリーミング転送でソケット通信と比べて遅延時間(レイテンシ)が89%減り、スループットが9倍になり、CPU負荷が87%減ったという。

日本IBM 理事 IBMシステムズ・ハードウェア事業部長 ハイエンド・システム事業部長 朝海孝氏
日本IBM 理事 IBMシステムズ・ハードウェア事業部長 ハイエンド・システム事業部長 朝海孝氏

APIを公開し、デジタルビジネスの新興企業と協業せよ

 会見では、理事でIBMシステムズ・ハードウェア事業部長、ハイエンド・システム事業部長を務める朝海孝氏が登壇し、現在のメインフレームの意義を「基幹系アプリケーションとデジタルビジネスの融合を狙った製品」と説明した。今後求められるITの姿である、“APIエコノミー”とリアルタイム分析をメインフレームが支えるという。

 現在、デジタルビジネスによる市場の変革が起こっていると朝海氏は指摘する。例えば、配車サービスのUberはタクシーを持たず、宿泊サービスのAirbnbは不動産を持たず、ECサイトのAlibaba.comは在庫を持たずに事業を展開している。こうした“持たざる経営”は破壊的なイノベーターであり、既存の企業にとって脅威となっている。

 こうした中、既存企業が進むべき道は、持たざる経営を実践している新規参入ベンダーと協業していくことと主張。このためにAPIエコノミーの構築が重要になるという(図2)。これは、既存の企業が持っている情報や機能にアクセスするためのインターフェースをウェブAPIの形でオープンに公開するというもの。例えば、金融機関が残高照会APIを家計簿ソフトに公開する、といった具合だ。

図2:既存の情報資産にアクセスするAPIを公開して広く使ってもらうことで、APIの利用者である新興企業と協業する
図2:既存の情報資産にアクセスするAPIを公開して広く使ってもらうことで、APIの利用者である新興企業と協業する

 リアルタイム分析の需要も高まると指摘する。例えば、マーケティング自動化ではさまざまな顧客との接点から得られる複数の生データをリアルタイムに分析し、ダイレクトマーケティングやキャンペーン実施などのアクションにつなげる。

 会見では、金融機関のワントゥワンマーケティングのダッシュボードの例を紹介した。1つの画面に顧客のプロファイルや信用情報、クレジットカードの利用情報、Twitterの発言(金融機関へのポジティブな発言とネガティブな発言を可視化)、などをリアルタイムに表示する。情報の分析基盤にはクラスタコンピューティングフレームワークの「Apache Spark」を使っている。

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