北京警察が1月13日、ネット警察ボランティアを募っていることを発表した。新聞やウェブニュースで広く紹介されていることからも分かるように、これは隠された話ではない。既に3000人のネット警察ボランティアがネット上の15000件もの違法行為を通報し、詐欺やデマ、ポルノ公開などを行った8400人を指導している。また彼らは210件の逮捕案件を助け、さらには1400件もの教育的な書き込みを微博(Weibo)や微信(WeChat)などのSNSにしている。
ネット警察のボランティアは、中国の中心的なネット世代である1980年代生まれ(80后)や1990年代生まれ(90后)が主で、職業は「学生、教師、著名ブロガー、医者、公務員、会社員、学者、ネット企業の社員、サイト管理人など多岐」に渡り、「高学歴な人が多い」という。
北京日報はボランティアに立候補した人の例を挙げている。ネット詐欺で母親が20万元を騙しとられたという艾さんや、子供の安全の為にポルノサイトを通報して取り締まろうとする、母親の趙さんなどを紹介している。「網警巡査執法」のリーダーは、このような人々を挙げ、「実際ボランティアを志願するのはこうした、熱意ある人々だ。ネットの責任をシェアする時代である」と発言した。
このニュースに中国国外のメディアが反応した。中国のネット政策を監視する中文メディアが主だが、英文メディアも報じている。2016年1月1日から施行された反テロ法「反恐怖主義法」では、個人や団体がテロ活動をチェックし、通報することが奨励されている。これに加えてのネット警察ボランティアによる監視は、当局が大衆を動員し世論をコントロールする、ネット版「文化大革命」あるいは「焚書坑儒」ではないかと訴える。
確かにポルノデータを危惧する保護者の気持ちや、手を変え品を変え、ユーザーを騙そうとするネット詐欺にうんざりする人の気持ちには共感できよう。しかしながら、中国が認定する「デマ」対策というのは、都合に合わせて自在に変化している。中国の認定次第でどのような意見でもデマに認定され、言論が統制されてしまう恐れがある。中国の微博をはじめとしたSNSでは、日々新しい単語がデマとして認定され、フィルタリングされている。
ボランティアといえば、2011年2月にネットの呼びかけで起きた「中国ジャスミン革命」により北京の中心部にくまなく「ボランティア」が配備されたことを思い出す。不審な動きをした人はすぐに捕らえられた。
環球日報は、各メディアの報道に加え、ネット警察ボランティアに志願した35歳の李冬(仮名)さんのコメントを紹介している。「中国高速鉄道事故でニュースに注目していたら、ネット上では様々なデマが蔓延し、社会により深い傷を負わせていることが分かった。様々な情報が飛び交う時代に自分はどうすればいいかを考え、2014年に参加した」「我々は密告者ではない。公民としての責任を全うしているまで。多くのネットユーザーが同じことをしていると信じている」
- 山谷剛史(やまやたけし)
- フリーランスライター
- 2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。